第20話 エルトスの葛藤
アルフィアスとセツヤは木剣で打ち合っていた。教えられた事を確認しながらの模擬戦で真剣勝負ではない。
「ここで横に振るのは?」
「いや、駄目だな。流れとしてはいいけど……こう防がれると危険だ」
互いに意見を言い合いながら木剣を振っていく。答えなどないために3人は意見を出し合うしかできていない。
「じゃあ、そこでクルッと回って斬るとか?」
「うーん、背後を見せるのは怖くないか?」
レイは外から見ながら意見を言う。しかし、相手がいつも同じなのでどうしようもなかった。お互いに手を変えて戦ったりもしていたが……それでも癖はあるのでそこを突く。お互いの癖などお見通しで成長できているのかわからない。このままでは強くなっている実感がなく、頭を悩ます日々が続いている。
エルトスは家の小窓からその模擬戦を見ていた。エルレイスにいる傭兵から稽古をつけてもらう、そんな考えも浮かんでいた。何人か雇い入れて模擬戦をしていけば、3人は成長を実感できるだろう。
(いや、それは無理だ。この場を教える事はできん)
この場を知る者は少なければ少ない方がいい。傭兵の中には口が軽い者もいるかもしれない。中にはこの場の有用性に気づいて奪いに来るかもしれない。さらに言えばここには美少女が2人もいる。奴隷商にでも売れば高値がつくだろう。そんな邪な考えを持つ者もいるかもしれない。
そんな悪い事ばかり考えてしまい、行動に移せないでいる。では他の手があるのかと言うとなかった。セツヤがこの場にいる事も不安に思っていた時期があるのだ。それほどこの場は知られたくない。
3人の能力を伸ばしてやりたいが……現状で打てる手はなかった。ではどうすればいいのか、現状維持でエルトスが教えていくしか方法がない。エルトスだけで教えられるものなのか……と堂々巡りになってしまっている。日々どうにかしなければと思うが、歯痒いほどに何もできないのだ。
「あいつらがいればなぁ」
エルトスは昔の仲間たちを、友たちを思い浮かべる。友たちと楽しく3人を育てられただろう。きっと自分たち以上の強さを持った騎士に成長するに違いない。
微笑み、そう昔を懐かしみながら……エルトスは首を横に振った。
(それが無理だと言う事はワシがよく知っていいるはずだ)
友たちを頼る事などできない。いいや、正確に言うならば……友たちが生きているのかもわかっていない。
エルトスは天井に視線を向ける。そうでもしなければ涙が零れ落ちそうになっていた。
(友たちよ、ワシはどう導いてやればいい?)
目を瞑り、会う事が叶わない友たちを思い浮かべる。心の中にいる友たちへ問いかける。
『馬鹿真面目ですね! エルトス隊長は!』
『そんなの隊長が1番わかっているはずですよ?』
『そうだそうだ! 俺たちと共にやっていたように思うまま扱けばいいさ』
お売りに、心の中にいる友たちは笑ってそう言うに違いなかった。そうエルトスらしく扱けばいいと。
エルトスは想像の友たちに励まされた気がした。そしてフッと笑って外へ向かう。3人の自信がつくように扱く。エルトスが悩んでいては3人の成長に繋がらないだろう。もっと堂々としてエルトスは高い障害になろうと決めた。
意味のない悩みは無駄だとエルトスは吹っ切れたのだった。
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