第19話 3年が経って

 3年の月日が経って15歳となったアルフィアスとレイは成人した。セツヤは記憶がないので同い年くらいだろうと考えている。セツヤの誕生日がわからないので出会った日を生まれた日となり、そのため15歳にはなっていない。今は8月でセツヤの誕生日となったのが11月18日。レイからまだ子供だと揶揄われる日々が続いていた。


 カン、と木剣の打ち合う音が響き渡る。エルトスとレイが打ち合っている音だ。エルトスを相手に模擬戦が行われている。レイの前に打ち合っていたアルフィアスは布で汗を拭っていた。

 セツヤは木陰に座っている。レイの模擬戦を見ながら3人に信頼はされていないが、信用はされている事に安堵していた。3人の態度が以前とは比べられないほどに軟化している。その事が嬉しいセツヤは微笑んだ。


「いつまでニヤニヤしながら休んでいるのさ」


 模擬戦を終わらせたレイが汗を滴らせながらセツヤの下に来た。


「ニヤニヤしていたか?」

「うん、していたよ。気持ち悪い顔でね」


 辛辣な言葉にセツヤは肩を竦める。ジト目のレイはセツヤから視線を外さない。これに耐えられなかったセツヤは勢いよく立ち上がって……。


「よし、次は俺の番だな!」


 エルトスの下へと逃げた。レイはその背中を見送ってから嬉々として木陰に座る。手で顔を扇ぎながら澄ました顔をしていた。

 どうやらレイは自分が休むためにセツヤを追い出したようだ。とても複雑な感情を抱きながらセツヤは木剣を構える。その姿にエルトスは苦笑しながらセツヤと相対した。


「よろしくお願いします」


 頭を下げるセツヤ。だが、その所作にエルトスは呆れたようにため息を吐いた。


「はぁぁ、何度言ったらわかるんだ。これは実戦形式の模擬戦。挨拶は抜きにしてかかって来い。お前は戦場でも挨拶するつもりか?」


 何度も言われているが抜けきらないセツヤは頬を掻きながら頷いた。セツヤが打ち込んでいく。それを受けながらどこが悪いかと声をかけながら戦っていく。


「ほら! その動きは隙が大きいと言ってりうだろう!」


 セツヤが斬り込んできた瞬間に避けて、空いている腹部を木剣で薙いだ。


「がはっ!」


 容赦のない一撃にセツヤは尻から芝生に落ちる。肺にあった空気が全て出てしまうほどの衝撃。そしてセツヤの喉に突きつけられる木剣。


「ま、参り……まし、た!」


 辛うじてそう言うとエルトスはフッと笑って右手を差し出す。セツヤはその手を取って立ち上がるが、未だに息ができない。


「まぁ並の騎士ならば倒せるだろう。だが、一流には通じない。もっと視線で誘導するんだ」


 それだけ言うとエルトスが家の中へ入って行く。セツヤはそれを見て膝に手をついて息を整える。何度もエルトス相手に打ち合っている。エルトスの教えだけでは自分がどれほど強くなっているのか実感できないでいた。

 それにエルトスは右足を庇っての戦いで3人は1本も入れる事ができないでいる。本当に自分たちは強くなっているのか、疑問が生じていた。


「ふぅぅ、どうするべきか……」


 家の中に入ったエルトスは悩んでいた。3人が伸び悩んでいる事に気づいている。どうにか自信をつけさせてあげたいのだが……。


(ワシが負けても自信がつくとは思えん)


 むしろ手を抜いた事に怒るだろう。さらに言えば、相手がエルトスばかりでは変な癖ができかねない。どうすればいいのか、エルトスも悩んでいた。

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