第17話 市場
「早く買い物しようか。セツヤが待ちきれないようだし、ね」
苦笑しながらレイはセツヤを見た。ここは市場の入口。昼少し前の市場でもまだまだ賑わっている。セツヤは目をランランと輝かせて大きめの市場に興奮していた。
「うおお! あっちは野菜! こっちは干し肉! いろんな物があるんだな!」
バッと振り返るセツヤの顔を見て2人は苦笑いする。興奮しすぎてみていられないほどで、小さい子供のように感じてしまう。だが、澄ましている少女も人の事を言えないほどワクワクしている。顔には出さないが。
「さあ! 先ずは野菜から見るか!」
目の前にある野菜を売っている店へ。市場と言う事もあり、いろんな店舗が出て野菜だけでも複数あるようだ。それぞれ違う野菜を売っている所もある。もちろん同じ野菜を売っている所もあるが、場所によっては状態が悪そうに感じた。
「いらっしゃい! 新鮮な野菜を仕入れてあるよ!」
恰幅のいいおばちゃんがにこやかに笑いながら声をかけてくる。セツヤはザッと何の野菜があるかを見た。この店は状態のいい物ばかり置いてあるようで興奮するセツヤ。
「これはブロッコリー? こっちはジャガイモ?」
「そうだよ、美味そうだろう?」
「どれも美味そうだ。選んでも?」
セツヤの言葉に頷いてみせるおばちゃん。顎に右手の人差し指を当てながらふんふんと頷いて選ぶセツヤ。その顔はとても真剣でおばちゃんは笑った。
「あはは! そんなに野菜に集中していていいのかい? 彼女たちがポカンとしているよ?」
「え? あぁー、大丈夫。もう選んだから」
セツヤは状態のいいブロッコリー3つと芽の出ていないジャガイモ5つ選んでいた。セツヤの目利きにおばちゃんは目を丸くする。
「いや、あんたすごいね。いいのを選んだじゃないか。全部合わせて銅貨20枚でいいよ」
「値段がわからないけど……大丈夫?」
セツヤからすれば銅貨20枚と言われてもわからない。銀貨1枚で銅貨100枚だ。市場には値段が書いていない。これは交渉などして値切るためだ。値段は店主の気分次第で上下する。中には高値で売ろうとする者もいるが。
「その大丈夫はどっちの大丈夫だい?」
ニカッと笑いながら渡してくるおばちゃん。セツヤは頬を掻きながら答えた。
「そりゃ安くて大丈夫かの大丈夫だよ。俺ならジャガイモ5つで銅貨20枚は行くんじゃないかって考えたんだけど」
「プッ! あはは! あんたいいね! 大丈夫さ! 他の客から巻き上げるからね!」
笑った後に小声で告げるおばちゃん。セツヤは心配しなくても大丈夫なのだとわかってニヤリと笑う。
「ははは! お姉さん商売上手だね!」
「あんたこそ! 口が上手いじゃないか! 後ろの彼女たちから嫉妬されるよ?」
「ははは! そんな関係じゃないって」
セツヤは背にある籠の中へ買った物を入れていく。今回の外出に必要な物としてエルトスから渡されていたのが背負った籠である。籠はセツヤだけが背負っており、2人は手ぶらだ。レイは財布を握っているが。
「これでポトフの材料が2つ手に入ったな!」
ホクホク顔のセツヤは次の店に向かった。
「……調味料はどこだろう?」
様々な店を見て野菜などは買えた。だが、調味料がないと味が整わない。キョロキョロと辺りを見て……。
「そうだ、醤油が欲しいな……ん?」
醤油と漏れた言葉。だが、醤油とは何なのかがわからない。調味料の1種とは思うが……。
「あの、醤油ってどこにありますか?」
近くの店主に問うが……。
「ショーユ……そりゃ何だい?」
天Sっ風は首を傾げて何なのかわかっていない。その姿を見てセツヤは醤油を諦める。セツヤは店主の醤油の言い方を聞いて、ここには存在していないのだと思わせたからだ。ではなぜセツヤは醤油を何となく思ったのか、答えは出ない。
そのまま店主に調味料を聞くと……。
「あぁ、それならあっちだよ。あの店で売っていると思うよ」
店主に紹介された店へ。
「いらっしゃい、何をお探しで?」
「おおお! ニンニク! これは……ショウガ?」
「よく知っているね、そうだよ。こっちはクレソンでそっちはバジル」
調味料ではなく香草ばかりだったが、セツヤはニンマリと笑って状態のいい物を選んで買う。コショウがなかったのは残念だが、店主に聞くとこころ辺りでは売っていないとの事だった。
「コショウは海の向こうから仕入れて来るrしいからねぇ、内陸部のここじゃ滅多に入って来ないよ」
セツヤはガックリと肩を落としたが……。
(まぁいいや。いい物を買えたし)
ホクホク顔のセツヤ。籠も重くなり、背負い直す。レイは呆れていたが、食材を見ていて何か美味しい物ができるのだろうなと感じていた。想像はつかないが。
「よし、こんなものかなぁ」
「お金全部使った……最後に残ったら何か買おうと思っていたのに」
レイは自分の考えが甘かった事を少しだけ悔やんだ。エルトスから残ったらちゃんと返せと言われていた、残ればその金でレイは遊ぼうと考えていた。やはりどこかで財布の紐を締めるべきだったと思うレイ。しかし、あんなに楽しそうにしているセツヤを見て、まぁいいかと肩を竦めた。
「帰るか……あれ?」
セツヤはレイの隣を見たが少女の姿を見つけられない。
「レイ、あの子は?」
名前を知らないのでそう聞くとレイは周囲を確認して……。
「あ……」
レイは顔を青褪めた。少女がどこに行ったのかわからないが、迷子になった場合の集合場所を思い出す。
「王の剣がある場所……!」
レイが呟くとセツヤと視線を合わせて……2人は頷いた。急いで王の剣がある場所を目指す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます