第16話 エルレイス

「エルレイス……? ――っ!」


 セツヤはその名を聞いて頭痛がした。ズキズキと痛むがまだ我慢できるほどでエルレイスへ。2人は首を傾げているセツヤに気づかず向かって行った。もう少しで街へ入れる事に喜び見ていなかったのだ。なぜ頭痛がしたのかはわからない。だが、忘れてしまっている記憶の底にエルレイスがあるのかもしれない、そんな疑問が浮かぶ。

 セツヤは首を横に振った。今は食生活の充実を考える。優先するべき事があるために浮かんだ疑問もすぐに消えた。それよりも早く街へ入って何があるのか見てみたいセツヤは頭痛がした事を忘れてしまう。


「お使いか? 偉いな」


 門番のお兄さんにそう言われながら街の中へ。先ず目に飛び込んで来たのは人々の笑顔。西門から入ったために住宅地となっていた。それぞれ入る門によって街の雰囲気は違う。北門は騎士街。この街に常駐している騎士たちの家。南門は市場。食材などを買うための場所。東門は職人街。剣などを作っている。中央は領主の家となっており、立派な屋敷が建っている。


「市場はこっちだよ」


 レイの案内で南門がある方へ行く。今回の買い物に銀貨5枚をレイが管理している。セツヤに渡すといろんな食材を買おうと暴走する事が目に見えていた。だが、少女に管理させる訳にもいかない。銀貨の価値をわかっていないからだ。まだ少女は貨幣について教えられていなかった。レイが1番安心だろうとエルトスから渡された。レイに渡す事に一抹の不安を感じながら、だが。


「よし! 行こう!」


 目を輝かせながら市場へ突撃しようとしていたセツヤ。それを阻止するためにレイはセツヤの首根っこを掴む。


「待った。迷子になった場合の決め事をするよ」


 目の前にいろんな物があるのに待てをされるセツヤはガックリと肩を落とした。その姿にレイは苦笑しながらズルズルとセツヤを引き摺っていく。


「王の剣がある場所に来る事!」

「それはどこにあるんだ?」


 引き摺られながら問うセツヤ。少女も気になったのかレイを見ている。


「まぁ待ってよ。もう少しだから」


 3人は先ず王の剣がある場所を目指した。そこは南門の少し奥にある広場だ。


「――っ!」


 誰が息を呑んだのか、開けた場所に4段ほどの階段。視線を上げると台座に剣が刺さっていた。

 周囲には人々の姿が。剣を抜こうとしている者もいた。次々に挑戦しては抜ける気配がない。それを見て野次が飛んでいる。笑いながらお前には無理だなどと声が飛び交っていた。抜けなかった者は悔しそうにして降りて来る。そして次の挑戦者が挑む。

 そんな光景が繰り広げられていた。


「あそこが王の剣がある場所ね。迷子になったらここにいる事! いいね!」


 レイが振り返ってどや顔で言っているが、少女は目を見開き固まっていた。セツヤはその横顔を見て何かあったのかな、と思い声をかけようとした。


(あ……そういえば名前を聞いていないな)


 何度も機会はあったが、聞きそびれていたと思い出す。手を伸ばして少女の肩を叩こうとするセツヤ。だが、その手は空を切った。


「行きましょう」


 少女は市場の方へ足を進める。レイはセツヤと顔を見合わせて不思議に思いながらも少女を追った。

 早鐘を打つ心臓に少女は困惑していた。あの剣を見ると胸の奥がざわざわして謎の感情が湧き上がってくる。その感情が何なのか、少女にはわからないが落ち着かせるためにこの場から早く去りたい。そう思っての行動だったが……2人は気づいていなかった。ただ足早に市場へ行く少女を追いかけながら2人は買い物が楽しみだと思っていた。

 少女が焦っているとは思ってもいない。この場が少女を不安にさせているとも知らずに。

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