第15話 街へ!

「気をつけて行って来い」


 エルトスが玄関まで見送ってくれた。少女が行く事にとても心配していたが、顔には出さなかった。心の中では不安でいっぱいだったが。街までは大人の足で1時間半ほどかかる。道に出れられたらそのまま歩いて行くだけで着く。3人が家を出て少し歩くと――。


「え? どうなって?」


 後ろを振り返ったセツヤは驚きの声を上げた。家があるはずの場所に木々が鬱蒼と生い茂っている。あるはずの家がなくなって森にしか見えないのだ。


「すごいよね、これ。高名な魔法使いに頼んで結界を張ってもらったんだって」


 レイが説明してくれた。少女も驚いているようで口をパクパクさせている。


「普通は許可された者しか入れないんだけど……何でセツヤは入れたんだろうね?」


 レイの刺々しい言葉でセツヤは理解した。エルトスとレイが警戒していた理由を。


(成る程、許可した覚えのないやつが家の前に倒れていた……それは警戒して当然だな)


 セツヤが納得しているとレイがさらに続けた。


「ちなみになんだけど、ここを森と思って入って行くと反対側に出るよ。つまり許可された者以外はそのまま家も見えずに通り過ぎていくって事だね」


 この家は厳重に守られている。そこでセツヤはなぜここまでしないといけないのか、疑問に思う。


(とてもすごい魔法だけど……何を守っているのだろう?)


 首を傾げながらセツヤは森を見ているとレイが声をかけてきた。


「ほら、街に行くよ」

「あ、あぁ……わかった」


 セツヤは疑問を振り払うようにレイと少女の下へ。今、その事を考えても答えは出ないと思ったからだ。



 足首までの草を踏みつけながら歩く。見渡す限りの草原を3人は黙々と歩を進めた。別に会話が弾まないと言う事はない。むしろ話しかける事ができないでいる。

 セツヤが隣を見るととてもワクワクしている少女がいた。周囲を目に焼き付けるかのように見回している。ただの草原が広がっているだけなのだが、少女は物珍しいようだ。こんな状態の少女に声をかけるのは流石にできない。初めての外出に舞い合っている少女の気分を損ねたくないからだ。

 背後にいるレイへと視線を向けると少女を微笑ましそうに見ている。こちらも話しかけ難く、セツヤはどうするかと頬を掻いた。

 見渡す限り何もなく、変わらない景色の中を黙々と歩くのは苦痛でしかない。会話でもしながら歩きたいほどに暇を持て余してしまう。だが、少女にとっては全てが新鮮で嬉々として歩を進めて行く。その笑みを浮かべた横顔を見ている事しかできずにいた。


「どのくらいで着く?」


 沈黙に耐えきれず、結構な距離を歩いたと思ったセツヤはレイに問う。


「まだまだ着かないよ」


 肩を竦ませながら答えるレイ。少女は2人の会話が聞こえてきて後ろを向いた。その目をキラキラさせながら聞いてくる。


「どんな所なのでしょうね、早く見てみたいわ」


 とても楽しみで笑顔が溢れている少女。その笑顔はとても眩しくてセツヤは頬を掻きながら目を細めた。少女が太陽のように美しく感じたからだ。



 街へ近づいていると感じたセツヤ。周囲の景色が変わっていったのだ。畑が見えてきて疎らながらも人の姿もある。今まで歩いていた道よりもいくらか整備されているように感じる。セツヤはレイを見ると頷いていた。


「もう少しで街が見えて来るよ」


 その言葉を聞いた少女は無意識に歩が速まる。置いていかれそうになったセツヤとレイは顔を合わせて苦笑した。セツヤもどんな所なのだろうかと心の中ではワクワクしている。

 少女を追って緩い上り坂を過ぎると足が止まっている少女の隣に立つ。


「すごい……!」


  少女の目線の先には5メートルほどの高さがある石の壁。幅はどのくらいあるかわからないほど広く、ちゅおうには大きな門があった。

 威圧感さえある壁を指差してレイは誇らしげに胸を張って言った。


「あそこが王の剣がある街……エルレイスだよ!」

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