第12話 苦し紛れの1品
セツヤは頭を抱えた。心情は絶望。目の前にある物が信じられない。なぜ、と疑問が何度も湧いて消えていく。
だが、直視しなければならないだろう。
「食材が……ない!」
エルトスから台所を借りたのはいい。食材も何かあるだろうと軽く考えていた。そんな数分前の自分を殴ってやりたい気持ちになるが……それでも食べるならばどうにかしなければならない。
深く考えればわかっていた事だった。あるのは干し肉が大量に。水分が抜けてしなしなになった葉物野菜と思しき物が少量。固く口の中の水分を大量に奪うパンが数個。調味料などあるはずもなく、岩塩らしき物が転がっている。
現実を見てセツヤはh座をついて項垂れた。
「無理だ……この状況で料理なんて……」
3人の不思議そうな顔は料理がどういうものかわかっていなかった、と言う事になる。つまり、食材でどうにかなる事はない。むしろこの惨状で文句の1つも出ないのがおかしいくらいだ。いくら代わり映えがしなかったとしても限度があるのではなかろうか。
「あ、何だか不憫に思えてきた」
セツヤはレイとまだ名前も知らない少女に同情した。同い年の12歳くらいと言えば育ち盛りだろうに……もっと美味しい物を食べさせてあげたい。そう思うとどうにかできそうな……。
「……やっぱり無理!」
食材を見てエルトスの料理以上の物ができるとは思えなかった。それでも立ち上がって何かできないかと考える。
「塩は……岩塩か? 大きいな。他の調味料はない。干し肉はこの岩塩を使っているとして……葉物野菜はどこから仕入れて来ているんだろう? たぶんこれはキャベツだよな。こんなに状態が悪いのはそのまま置いているからか?」
顎に手をやり、ブツブツと呟いて考えをまとめていく。
「よし! 仕方がない! 干し肉を使ってスープでも作るか!」
干し肉を包丁で……ない。周囲を探すが短剣しかない。包丁らしき物はなく、どうやらこの短剣で捌いているようだ。首を傾げながらもセツヤは短剣で一口大に切って鍋へ。もちろん切るのに一苦労したが。
「……この鍋は洗ってあるんだよな?」
年季の入った鍋に不安を覚えるセツヤ。周囲を見ても綺麗にしていない。掃除など後回しのように思える。ハッキリ言ってぐちゃぐちゃだ。辛うじて毎回使う物は取り出しやすくなっているが、他の使っていないのだろうなと思える物は放置してあった。
「……後で掃除させてくれないかな」
別に出て行くのはいいのだが……見過ごせないほどの汚さを誇っている。埃だけに、とくだらない事を考えながら作業を開始する。少しでも現実逃避しなければやっていられなかった。
「まぁ、いいや。先ずは飯だ」
水を鍋に入れて沸かしていく。最初から入れていた干し肉がいい出汁にならないかと思いながら煮込んでいった。
「よし、そろそろいいかな?」
葉物野菜を入れて煮込めば……スープの出来上がりである。パンを浸しながら食べれば何とか胃に優しい……はず。
スープを椀に入れて持って行く。
「いただきます」
手を合わせてからスープを一口。
(うん、美味しくない。でもまだ食べられるかな?)
パンを浸してから食べてみる。
「うーん、やっぱり調味料が欲しいなぁ」
セツヤが首を傾げながら食べていると3人が目を丸くしながら見ていた。エルトスが作ったスープよりも幾分マシ程度の味だが、3人には未知の物に見えているようだ。
「……食べてみますか?」
3人は顔を見合わせてから頷いた。声も発せないほどに驚いている。セツヤは苦笑しながら台所へ。椀を受け取って注いでいった。
「どうぞ。それなりの物なので満足させられないかもしれませんが」
3人は恐る恐るスープを一口。
襲う衝撃。今まで食べてきた物が料理と呼べる物ではなかった事に気づく。唸る3人だったが、エルトスは顔を上げて問う。
「……どういう事だ? 美味しいぞ?」
エルトスの問いにレイと少女はハッとなった。そして目を白黒させて困惑している。塩辛いだけだったスープが肉の微かな旨味と野菜が入った事によって塩味の緩和を引き起こしている。3人にとって美味いと思える物だった。セツヤとしてはあまり褒められた物ではないのだが、苦笑いしかできない。
「えっと……いろんな食材があるともっといい物ができます。これは応急処置と言いますか何と言いますか」
困ったように頬を掻くセツヤを見て3人は衝撃を受ける。これ以上に美味い物が作れると言うセツヤ。これ以上とはどんな味なのだろうか。気になった3人は顔を見合わせる。数瞬の出来事でエルトスが咳払いをした。
「おほん! あー、何だ……その、動けるようになっても居ていいぞ?」
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