第11話 料理とは言えない
微かに開いた窓から朝陽が差し込む。その温かな光に照らされて目を開けるセツヤ。ゆっくりと上体を起こして眩しさに目を細めた。ぐっすりと眠る事ができて清々しい気分になっていると……。
「ん、腹が減ったな」
昨日の夕方は寝ていたために食べられなかった。基本的に2食が普通のため、夕方に起きて食事を取る事もできた。食事よりも睡眠を優先したセツヤ。空腹感は感じていたが、ゆっくりと身体を休めたいと思ったのだ。
昨日の朝は食べていたので空腹で倒れる事もなく、少しだけ回復したと感じる。手を見ながら握って開いて、と繰り返した。1つ頷いてベッドを出て腰かける。身体を解すように伸ばしていく。
「んー! いい朝だな」
怠さも抜けて気持ちがいい。歩いてみると少しフラフラするが問題ない程度には行けた。本調子とまではいかないが、数日もすれば回復しそうだ。ゆっくりと歩いて
リビングへ。
「おはようございます」
エルトスへ挨拶をする。一瞥しただけでエルトスは食事の用意を続けた。椅子に座っているとレイが元気よくやって来て、睨まれる。その姿にセツヤは苦笑した。少し遅れて少女が眠そうな顔をしながら現れる。
(そういえば名前を聞いていなかったな)
そう思いながら声をかけようとするが……レイから睨まれた。肩を竦めて苦笑するセツヤはエルトスへ視線を向ける。エルトスは状況を理解しながらも無視した。皿を持って全員の前に置いていく。
「食え」
数回往復して目の前に置かれた物は……昨日とほぼ同じであった。唯一の違いは野菜のスープが付いた事。
何も言わずに食べ始める3人。まさか同じ食事が出た事に驚きを隠せないセツヤは固まっていた。確かにスープは付いたが……それでもパンと干し肉は辛い。
「どうした? 食べないのか?」
エルトスの言葉にセツヤは我に返って野菜のスープを一口。なぜだろうか、塩を入れて煮込んだだけで野菜の甘みすらない。ただの塩辛いスープである。
干し肉は言わずもがなで固く塩辛い。カッチカチのパンで3人はスープに浸して少し柔らかくしてから食べている。ただスープの塩辛さがなくなる訳ではないのでセツヤとしては塩を食べているように感じていた。
これが普通でセツヤが考えている食事は普通じゃないのかもしれない。もっとこう彩りとか栄養バランスとか必要ではないだろうか、そう感じて悶々としているとレイがセツヤを不審そうに見てきた。レイは食事を止めたセツヤへ声をかける。もちろん声音は優しく、視線は刺々しい。
「どうかした?」
何か不審な事を言えばただでは済まさない、と言っている雰囲気のレイをセツヤは一瞥した。そしてエルトスへ視線を向けてセツヤは申し訳なさそうに聞いた。
「これが普通なんでしょうか?」
セツヤの質問に3人は首を傾げて視線を合わせる。何を言っているのかわかっていない。まさか料理という言葉も知らないのか、と思ってしまうセツヤ。だから恐る恐る問う。
「えっと、これが料理でしょうか?」
「何が言いたい?」
セツヤの言葉にエルトスが反応した。少しだけ不機嫌そうに眉を寄せる。レイと少女は言っている意味がわからないのか呆けていた。エルトスとしては料理なのだが……セツヤの反応を見て首を傾げている。困った顔でセツヤは目の前の皿を見て頬を掻いた。エルトスにはセツヤの言っている料理がわからない。もしかしたら、と思う所もある。それは昔に食べた事のある物たちだ。それでもこれは料理であるとエルトスは思っていた。
これが普通なのかとわかったセツヤは頭を抱える。数十秒後に顔を上げてセツヤはとても真剣な顔をしながら聞いた。
「あの、料理してもいいですか?」
目の前に料理があるじゃないかとでも言いたげな顔で見合わせる3人。首を傾げて3人は怪訝な顔をしていた。セツヤの鬼気迫る表情にエルトスは心の中で驚きながら頷いてみせた。
「あぁ、わかった。勝手に使え」
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