第10話 食事?
セツヤは唖然としていた。
目の前には干し肉とパン。それ以外はなく、恐る恐る3人を見ると黙ったまま食べていた。少しだけ目が死んでいるような気もしないでもないが……セツヤはこれが食事と呼べるのかわからず、絶句している。
全く手をつけようとしないセツヤを不審に思ったのか、エルトスから声をかけられた。
「早く食え」
レイと少女の顔を見ても文句なく食べている。と言うよりも何か腹に入れている作業のように感じられるが。これがここの普通なのだ。そう思う事にして、先ずはパンを手に取ってみる。触った瞬間に嫌な予感がした。
「い、いただきます」
それでもセツヤは困惑しながらもパンを一口。喉がカラカラになるほどの水分を奪っていくパン。中はボソボソで表面は固い。歯が折れるかと思うくらい固い。飲み込むのに一苦労しながらセツヤは頭を抱えた。このパンはこのまま食べるのかわからなくなる。もっと違った食べ方があるのではと思ってしまう。例えばスープなどに浸しながらとか。それほどに食べられる物ではなかった。
パンは置いて干し肉を食べる。
こちらも喉が渇くほどの塩気で肉の旨味すらない。さらに言えば弾力があり過ぎて噛み切るのに苦労した。噛めば噛むほど塩を食べているかのようだ。限度があるだろうと思うセツヤ。これを食べきる事などできないと感じ、水をもらう事に。
「水をいただいてもいいですか?」
エルトスは食事を中断して水差しを持ってくる。木製のコップも手渡されてセツヤは水で一息ついた。3人は喉が渇かないのか黙々と口に持って行く。
真似できない。
セツヤはこの食事を食べきる事などできそうにないと思う。栄養バランスはどうなっているのか、気になるセツヤ。栄養と言ってもエルトスたちはポカンとしそうだが。セツヤは元気になるまでの居候の分際で何か言えるはずもなく……。
「ごちそうさまでした……」
水を駆使して食事を終えた。身体が弱っている時に食べる物ではないと思いながらも、何とか胃に流し込んだ。食えた物ではなかったが、残す事もできず……無理して食べきった。
病人になった場合はどうしているのか問い詰めたいほどに劣悪と言っていいだろう。セツヤとしてもこの食事が続けたとしたら……身体を壊す自信があった。
どうにかしたいが……文句や意見を言える立場ではないと心にしまい込む。それに今日だけがこの食事だった可能性も、ある。いや、あると思いたいセツヤ。
(これは朝だから、だよな?)
ふと気づいたセツヤはまさか、と思う。夜もこんな感じならば……セツヤは身震いする。食べ終わった木製の食器を台所へ持って行く。すでに3人は食事を終えていて、どこかへ行ってしまっている。
セツヤは台所の惨状を見て……1つ頷いてリビングを出る。見なかった事にした。ハッキリ言って汚い。掃除していないのか、深くは考えないようにするセツヤ。
壁を伝って廊下を歩いているセツヤはビュンビュンと空気を裂く音を聞いた。
近くにあった木製の小窓を開けると庭があり、レイと少女の姿がある。木剣を持って素振りをしていた。少女の背中を見ながらセツヤは心が痛む。ポタリ、ポタリと水滴が落ちた。
「何で……?」
セツヤは頬を触ると濡れていた。どうやら涙を流しているのだとわかって、なぜ泣いているのかはわからない。
ただ少女の背中を見ていると涙が溢れてきたのだ。
「――っ!」
少女の背中が誰かと重なる。
それが誰なのかはわからない。だが、大切な……そう、とても大切なモノがなくなったと感じていた。
セツヤは涙を拭いて前を向く。
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