第7話 記憶がない
敵意。そう目の前にいるエルトスからは警戒と敵意が感じられた。別に睨んでいると言う訳でもない。それなのにセツヤは感じ取っていた。確かにエルトスから見れば不審者となるのだろう。
何者か。その問いにセツヤは……。
「えっと、俺はセツヤと言います」
と名乗った。だが、すぐにあれ、となる。
自分はなぜここにいるのか、なぜ何も思い出せないのか、なぜ名前だけしか浮かばなかったのか。
(俺はセツヤ……あれ? 俺は何をしていた?)
唸っているとエルトスが指差す。その先には漆黒の鞘に納まった剣があった。その剣を見ていると懐かしさがこみ上げてくる。この剣は何なのか、セツヤにはわからない。だが、とても大切な剣である事だけはわかる。それだけわかってもあまり意味はないが。
「その聖剣を持っている。騎士以外に考えられない。お前はどこの回し者だ?」
エルトスの言葉を聞き流しながらセツヤは剣から目を離す事ができない。その剣だけしか目に入っていない。ゆっくりと剣に触れるセツヤ。
「ぐぅ! うぅぅぅ……!」
触れた瞬間に激痛が走る。頭を抱えて剣から手を離した。それは経験した事のないほどの痛みで、剣から自分に触れるなと拒絶しているようだ。セツヤを遠ざけようとしていると感じた。
「……何をやっている?」
剣に触れた瞬間に顔を青褪めたセツヤを見てエルトスは疑問が湧いた。何をしているのかわからなくなる。
(剣の持ち主ではない? いや、ワシが直接触れようとすると弾かれた。この剣を離さなかったのはこの小僧だ……ではどういう事だ?)
エルトスは何が起こっているのか必死に考える。ベッドにセツヤを運んだ時に剣から手が離れた。それまでは特に痛みを感じているようには見えなかった。それがどうだ。今のセツヤは顔を青褪めて頭を抱えている。
どういう事なのか、全くわからないエルトスは腕を組んで眉根を寄せる。唸っているとセツヤが疑問を投げかけてきた。
「あの、ここはどこですか?」
「は? 何を?」
エルトスは目が点になった。思わず呆けた声が出てしまうほどに。エルトスはセツヤの言葉を理解できなかった。いや、言っている意味はわかるが……。
エルトスはセツヤを見ていると本当にここがどこかわかっていないとわかった。惚けているようにも見えず、エルトスは大いに困惑した。
「待て待て! お前は何を言っている? ここがどこか、だと?」
「はい……本当にわからないんです」
セツヤは純粋にここがどこか知りたかった。それで何かわかるかもと思っている。困ったように頬を掻いて苦笑しているセツヤ。とても申し訳なさそうにしている事にエルトスは開いた口が塞がらなかった。困惑によりエルトスは慌て始める。
「ちょっと待ってくれ! お前は本当にわからないんだな?」
エルトスの問いにセツヤは頷いてみせる。ジッと見つめ合うセツヤとエルトス。本気だと感じたエルトスは頭を抱えて背もたれに体重をあずけた。深くため息を吐いて、とても困っているセツヤを指の隙間から見る。どうすればいいのかわからない。だが、演技に見えず……。
「はぁぁ……ここはワシの家だ」
セツヤはなぜエルトスの家にいるのか思い出せない。だが、それもそのはずだった。エルトスの次の言葉で理解した。理解はしたが、なぜそこにいたのかまではわからなかったが。
「お前はワシの家の前で倒れていたんだ」
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