第4話 繰り返す世界の終止符

「行くのか?」


 ゆっくりとニアンが目を開けるとセツヤが寂しそうな顔で、止めたいと言っているような気がする。少しだけ心に残る想いを誤魔化すように。


「あぁ、もう行くよ」


 ニアンは頷いてわざわざ見送りに来てくれた事に感謝しながら城を見た。純白の城下町も賑わっている。元々は廃墟だったこの城をここまで美しくした。王の居城に相応しい姿となっている。住民も移民者が多く、種族も様々だ。


「本当に行ってしまうのか?」


 再度問うセツヤ。行って欲しくない、そうセツヤは思ってくれている。それだけでもありがたい。ニアンは悲しさを押し殺した笑みで頷いてみせる。


「今の王に僕は必要ない。それに王の威光が届いていない所もあるはずだ。だから僕は世界を見て回りたい」


 ニアンは止まるつもりはなかった。それが王の助けになると思っているから。その事にセツヤも頷いて……。


「わかった。こっちは任せろ」

「あぁ、任せる。でも……僕の力が必要になったら呼んでくれ。どこにいても駆けつける」


最後に拳を合わせて……ニアンは旅に出た。



そしてニアンは決戦の地アベルダンの丘にいた。


「どうしてだ! 答えろ! ニアン!」


 操っているアルフィアスの斬撃を避けながらニアンへ問うセツヤ。さすがに全てを避けきれるものでもなく、身体には傷がついている。時に剣で受け止めているがアルフィアスの聖剣エルカレアスの力に押されていた。


「どうして、だと……? お前たちは僕を忘れて楽しそうにしていたじゃないか!」


 周囲にいた騎士たちはアルフィアスとニアンによって殺されている。最後の1人となったセツヤは必死に説得する。


「違う! 俺たちはお前を忘れた事などない!」

「ふん! 何と言おうと僕は知っているんだ! お前たちの言葉に耳を貸すつもりはない! 死ねぇぇぇ! セツヤ!」


 セツヤの言葉も届かず、アルフィアスの聖剣エルカレアスの切っ先がセツヤの心臓を突き刺した。


「ニ、ア……ン!」


 悲しげな目で死んでいくセツヤにニアンは怒り……アルフィアスも殺す。八つ当たりである。そのアルフィアスにも哀れな者を見る目で死んでいったが。


「ふは……! ははははははははは!」


 だがここで違和感を覚えるニアン。何か見落としがあるような、と気づく。必死に考えるニアン。

 アルフィアスを殺した。セツヤを殺した。イルファスを殺した。レイを殺した。ラルフリットを殺しちゃ。全ての騎士を、殺した。


(では何が残っている? この違和感は何だ?)


 アルフィアスは自害した。心臓にエルカレアスが刺さっている。その姿を見ただけで歓喜の感情が湧き上がって笑ってしまう。

 だが、何かが足りない。

 いったい何なのか……。


 黒い雲から光が差し込んでくる。その現象を見てニアンは気づく……いや、思い出す。


「そうだ……!」


 記憶すらも戻して世界を始めからにしている存在がいたではないか。前の時に魔法を自分に撃ち込んだモノが思い出させてくれる。天使の出現で前の記憶が呼び起すように魔法を使ったではないか。そう天使だ。天使はセツヤに口づけをする。そして世界は始まりに戻る。

 ではニアンはどうするか。


「天使よ! 今回はお前の思惑通りには……させんぞ!」


 天使が憐れみの目でニアンを見ている。身体は動かないが魔法を発動するためにニアンは魔力を練る。そして天使がセツヤに口づけをする。


 そうここまではいつも通り。だが、今回のニアンは始まりに戻る世界へ魔法を撃ち込んだ。何の魔法を撃つべきかは前の記憶が教えてくれた。


「ふははははははははは! 天使よ! これで同じではなくなったなぁ!」


 天使は始まりへ戻す事はできても、楔を打ち込まれて消す事はできない。現にニアンの記憶を思い出す魔法を消せていない。その事に気づいたニアンは魔法を放ったのだ。しかし、これは一種の賭けでもあった。この魔法は消されるのでは、と一抹の不安はあった。

 天使の驚く顔を見ながらニアンは確信を持つ。これは成功すると。光に飲み込まれながらニアンは笑っていた。


「ふははははははははは! 貴様のその顔が見られただけでも僕は――」


 ――満足だ。


 そう告げながら世界は戻っていく。

 ニアンの楔を受けたまま。それが何なのか……天使にはわからなかった。だが、天使は思う。


 セツヤなら何とかしてくれるのでは、と。

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