第3話 繰り返す世界の一幕(ラルフリット)

「んぅ……?」


 目を開けたニアンは眠く視界が悪い目を擦る。覚醒していくとニアンの耳に大歓声が入ってくる。ニアンはそちらを見るとアルフィアスがエントランスから手を振っていた。

 その背を見て歓喜に打ち震えるニアン。だらしなく頬が緩んでいた。不意に隣から人の気配がして……。


「起きたか」

「……セツヤ」


 ニアンを見て苦笑しているセツヤはずっと隣にいた。ニアンが疲れて寝ていたので声をかけなかっただけだ。そのセツヤも感動しているのか緩んだ表情でアルフィアスへ視線を向けた。後ろ姿だがきっとアルフィアスは笑っているだろう。そうニアンたちはやり遂げたのだ。


「……ここに立てている事が夢のようですね」


 背後から声をかけてきたのは最強の騎士と言われている男、ラルフリットだった。エルフの特徴である長い耳にとても美しい顔をしている。だが本人は自分の顔を気に入っていない。周りは羨ましがるが、エルフの血は半分しか流れておらず、中途半端なのだと思っているから。


「ラルもお疲れ様だな。これで国は安定する」


 セツヤの言葉にニアンもラルフリットも頷いてみせる。一昨日に国をまとめ上げる事ができた。暗黒期とでも言える王の不在は15年。アルフィアスが王の剣を抜いたとしても各領主たちは従わなかった。バラバラだった国を1つにするために魔物や領主たちと戦い、仲間を失う時だってある。それでもアルフィアスを信じて集ってくれた騎士たちには感謝しかない。


「セツヤ、ラルフリット……僕は君たちに出会えた事を幸運に思う」

「……急にどうした?」


 セツヤは思わず聞いてしまう。ラルフリットは驚きすぎて固まっていたが。


「まだまだ問題はある。それでも僕は感謝を言いたかった。ありがとう」


 セツヤはニアンに面と向かってお礼を言われて頬を赤く染めて掻く。


「そういうのは全部終わった後だろ?」


 そっぽを向きながらセツヤは拳を突き出す。ニアンは笑いながら拳を合わせた。


「お2人の仲は焼けますな。私もそうありたいものです」


 ラルフリットの視線はアルフィアスへ向けられた。とても羨ましそうな顔で見ている。そんなラルフリットを見て、セツヤは笑いながらラルフリットへ拳を向ける。

 まさか自分にも同じ事をしてくれるとは思わずに固まったラルフリット。セツヤは当たり前だろと苦笑している。


「ラル、お前も大事な仲間だ。アルフィアスの騎士になったのが遅かったとしてもお前は剣で応えた。なら俺たちはお前の信頼に、忠誠に応える。ほら」


 拳をジッと見つめていたラルフリットは……。


「よろしいのでしょうか?」

「「当たり前だろ」」


 セツヤとニアンが同時に返した。

 その事で目を丸くしていたラルフリットはおずおずと拳を合わせる。するとニアンも拳をラルフリットへ突き出す。さらに大きく目を開いていたが、ラルフリットは歓喜の涙を流しながら拳を合わせた。


 アルフィアスを支える。


 それがこの場にいる……いや、騎士たちの想いであった。



 そしてニアンは……。


「ふははははははははは!!」


 アベルダンの丘で雨に打たれながら笑っていた。

 周囲には騎士たちの亡骸。その中にはセツヤがいる。ラルフリットの亡骸はない。ラルフリットはこの戦いの前に死んでいた。そうアルフィアスの妻をニアンの手から守るために戦ったのだ。

 その時のラルフリットは信じられなかった。ニアンと戦う事になるとは思ってもいない。防戦一方のラルフリットをニアンはなぶり殺した。アルフィアスの妻諸共。


「最強の騎士はいない! 最高の親友も今! 死んだ!」


 ニアンはアルフィアスの亡骸を見る。その顔には悲しみが浮かべられていて。それを自分に向けているなんて気づきもしない。

 ニアンは1人で笑っている。


 だが、ここで違和感を覚える。


(何だ? 何か僕は間違いを犯している気がする)


 違和感の正体はわからない。それでもこのままではと心が叫ぶ。それは何度も繰り返したからこその違和感なのだが……ニアンはわからない。


 雲から一筋の光が。

 ニアンは空から天使が舞い降りて来るのを見て理解する。


(あれをセツヤに近づけてはいけない!)


 だが、そう思っても天使が何なのかと困惑が勝り……。

 時すでに遅し。

 天使はセツヤの近くへ。行動に移そうとしたニアンは間に合わず、セツヤへ天使が口づけをした。

 光がニアンを襲う……が。


「うおおおおお!!」


 ニアンは何かの魔法を自らへ撃った。それが何なのか……天使にはわからない。

 そしてニアンは笑いながら意識を手放した。

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