第2話 繰り返す世界の一幕(レイ)
「くっ! 何が?」
目を覚ましたニアンは痛む頭を押さえながら周囲を確認しようとする。何かあったはずだと感じていると……。
「大丈夫か?」
隣から声がした。その声に懐かしいと感じて――。
(懐かしい? どういう?)
木を背に休んでいたらしいニアンは胸に去来した懐かしさに違和感を覚えながらも声の主を見た。
やはりそこにいたのはセツヤであった。とても心配しているのかオロオロとしていた。
その姿が笑えてきてニアンはクスッと笑みを浮かべた。ただニアンは休んでいただけなのに、と思いながら。いつの間にか違和感を忘れている事に気づかぬまま……。
「2人とも! 何をやってんだ! アルフィアスが抜くぞ!」
大慌ててでやって来たのはお調子者であるレイ。ヒョロヒョロとした身体をしているのに剣を振るうと姿は力強い男だ。アルフィアスの兄を自称しているレイはとても興奮している。
そんなレイが指し示すのは王の剣を抜こうとしているアルフィアスの姿が。自信に溢れたアルフィアスの姿にセツヤとニアンは笑みを浮かべた。
「……ここからだな」
セツヤが思わず言葉を漏らした。その声には重みがあって決意を多分に含んでいる。ニアンは立ち上がってついていた埃を払った。
「あぁ、これから忙しくなる」
ニアンもこれからの事を考えて頷いてみせた。視線の先にはアルフィアスがゆっくりと剣を抜いている。静まり返る人々。静寂の中で剣と台座が擦れる音が響く。そして抜いた剣を空高く掲げてみせると周囲からは歓声が上がった。新たなる王の誕生であると。この乱世を終わらせる王が降臨したと。
ニアンは拳をセツヤに向ける。セツヤは笑いニアンの拳と自分の拳を合わせた。
民は歓声を上げた後は跪いて王へ忠誠を誓っている。
(そうだ。ここからなんだ。僕はやれる。いや、僕たちはやれる)
ニアンは頬が緩むのを必死に我慢しながら王の下へ向かった。
時が進みニアンは王城の門にいた。
「寂しくなるな」
見送りに出てくれたセツヤがそう言う。だが、ニアンも寂しさは感じていたがそれでもやらねばならなかった。
「何かあれば教えてくれ。飛んでいく」
ニアンは魔法を使って戻って来ると言いながらセツヤに背を向けた。王の治世は上手くいっている。ならば最高の魔法使いと言われる自分は旅に出るべきである。各地を見回り王の助けになる。それがニアンのやるべき事であると思っている。悲しくないはずがない。仲間たちの楽しい笑い声や訓練の喧騒が聞けなくなるのだから。それでも王のためならば、と自主的に旅に出た。
そしてニアンは暗闇の中にいた。
ここがどこなのかわからない。気づけばいた。ただこの暗闇によって精神が参っているのだけはわかる。周囲がどうなっているのかもわからず、ただ死を待つだけだと思っていた。
仲間たちは何をやっているのだろうか。そんな事をずっと考えていた。
「ん? あれは?」
一筋の光が現れる。フワフワと漂い近づいて来る。それは鈍く光る水晶であった。警戒するニアンだが……。
「何……だ、と?」
その水晶は外を映していた。さらに言えば信じられなかった。混乱する頭で考えるが、目の前の水晶から目が離せなかった。なざならば王たちが笑い合っている。それもニアンの事など忘れているかのように……。
「なぜだ? なぜ誰も僕を呼んでくれない?」
沸々と湧き上がるのは……怒り。
「僕の事などどうでも良かったのか?」
胸中を渦巻く……嫉妬。
「僕なんて要らなかったのか……?」
その答えに辿り着いた時……憎悪が湧きだした。そして心に入り込んでくる声。重苦しい男の声。
「憎いか?」
ニアンは思う、憎いと。
「奴らを恨むか?」
ニアンは思う、恨むと。
「ではここから出て奴らを殺すか?」
ニアンは思う、殺すと。
「ふふふ、良いだろう私がこの空間からだしてやろう。そして……」
奴らを殺せ。
声に従いニアンは外に出る事ができた。そして……アベルダンの丘で王たちを殺した。
「ふははははははははは!」
笑っているニアンだったが心は晴れない。複雑な感情のまま笑っていると、黒く分厚い雲の一部から光が漏れ出す。そこから天使が舞い降りてセツヤに口づけをした。
光が溢れてニアンを包む。その光は温かかった。ニアンはどちらかわからない悔しさを抱きながら……意識を手放した。
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