嫉妬ニアンと無自覚セツヤのハーレム物語

冬乃夜

第1話 終焉そして……

「ふははははははははは!」


 黒い雲に覆われた空の下でニアンは笑っていた。身体を操られて動かせないアルフィアス王がジッと見つめているのを尻目に歓喜に打ち震えていた。

 周囲にはアルフィアスの騎士たちの亡骸が転がり、見るも無残な姿を晒していた。

 ここはアベルダンの丘。美しい緑が広がる草原だった場所。今は見るに堪えないほどに血の海と化している場所。

 そしてアルフィアスの騎士たちが散っていった場所。


 アルフィアスは最高の親友であるセツヤの亡骸を見た。自らの手で殺した親友。珍しい黒髪黒目でよく黒の服を好んで着ていた。その服は泥と血で塗れ赤黒くなっている。

 その近くには自分の息子イルファスが倒れている。泣き叫びながらセツヤを守ろうとしたイルファスの心臓を聖剣で刺し殺した。とても悲しげな顔をして最後に――。


「父上……」


 と言って涙を一滴流していた。


 アルフィアスは意識を残したまま操られていた。自分で解く事はできず、アルフィアスを助けるために戦ってくれていた騎士たち。その騎士たちを殺したのは自分だ。アルフィアスは涙を流しながら唯一動く瞳にニアンを映した。


「なぜだ」


 ニアンへ問うアルフィアス。その声は沈んでいて、とても落胆していた。本当にわからなかったのだ。どうしてこんな事をしたのか。なぜならばニアンも仲間だったから。

 ニアンは笑うのをやめてアルフィアスへ向き直る。


「なぜ、だと?」


 不機嫌そうにニアンは睨みつけた。その目には憎悪の炎が燃え盛っており、アルフィアスは理解できない。なぜ、と疑問が渦巻いている。その答えを吐き捨てるようにニアンは言った。


「お前たちが悪いのだ!」


 ニアンの慟哭は続く。


「アルフィアス! お前たちは僕を忘れて幸せそうに笑い合っていた! そこに僕もいたはずなのに!」


 アルフィアスは理解できない。確かにニアンの帰りを待っている間に皆と楽しく笑い合っていた。それは事実だ。ニアンが旅に出て心配していたのも事実だ。セツヤもずっと気にかけていた。早く帰って来ないか、と。

 それがどうだ。この惨状である。


「僕は幸せそうなお前たちが憎い! 絶対に許せない!」


 振り乱すように頭を掻きながら瞳の奥から黒い炎が浮かび上がる。憎悪と嫉妬だ。


「違う……違うのだ、ニアンよ」


 アルフィアスは本当の事を知って欲しくて声を上げる。だがもう憎悪に飲み込まれているニアンには届かず――。


「うるさい、黙れよ」


 アルフィアスの聖剣エルカレアスを奪い心臓刺し貫く。血を吐き出しながらもアルフィアスは手を伸ばしてニアンの頬に触れる。その手は温かかったがニアンの憎悪を解かす事はできない。アルフィアスはニアンを見ながら悲しげな表情を……想いが届かなかった事を申し訳なさそうに口を動かした。

 その口から声が出る事はなかった。アルフィアスの最後の想いも届かず……。


「やったぞ……!」


 ブルブルと身体を震わせてニアンは上を向いた。ポツリポツリと雨が降ってきてニアンの頬を濡らしていく。だがその頬を流れる雨には冷たさがない。ニアンの頬を流れるモノはいったい何か。本人は気づかないフリをした。


「ん? 何だ?」


 急に空から光が差し込んでくる。円状に空が開いてゆっくりとセツヤを照らす。


 何が起きているのかわからないニアンはジッと光に照らされたセツヤを見ていた。そして何者かの気配を感じる。


「誰だ!」


 どこにいるのかわからない。探査魔法も効果を発揮しない。それでも周囲を探っていく、が気配はあれど姿が見えない。どこからと焦るニアンはふと空を見上げた。


「な、ん……だと?」


そこには純白の天使が舞い降りて来ている。フワフワと純白の羽を使ってゆっくりと降りてきてセツヤの下へ。

 ニアンは警戒しながら天使を見ていた。


「何⁉」


 天使は憐憫を込めた目でニアンを見る。非難ではなく本当に可哀想なものを見る目。


「そんな目で……僕を! 見るなぁぁぁ!」


 憤って天使へ魔法を放とうとする。しかし、それよりも先に天使はセツヤの頬に口づけた。その瞬間にセツヤを中心とした眩い光が巻き起こり……ニアンは意識を手放した。

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