第3話
そうして、一行は再び歩き始めました。ところが、いくらも行かないうちに、またもや法師が立ち止まらせました。
「お待ちください。どうやら敵襲のようです」
「なんだと!?」
見ると、前方から弓矢を構えた兵士たちが押し寄せてくるではありませんか。たちまち一行を取り囲みました。兵士の中から、ひときわ大きな男が進み出て叫びました。
「おのれ! おまえたちの悪事はここまでだ。おとなしく縛につくか、それともこの場で殺されるか、どちらか選べ!!」
「ふん、何をぬかすか!」
そう言って、王様は腰の刀に手をかけましたが、それを法師が止めました。
「お待ち下さい。ここは私にお任せください」
法師は落ち着いた声でいいました。
「おぬしらは下がっておれ」
そういって、懐に手を入れます。取り出したのは、例の不思議な草でした。それを見て、兵士たちの間にざわめきが広がりました。
「あ、あれはまさか……?」
「ま、間違いない!あの草だ」
「だが、どうしてあいつが?」
「とにかく、捕まえろ!」
兵たちは一斉に飛びかかりました。しかし、法師は少しも慌てず、草を口にくわえて呪を唱えました。すると、どうでしょう。見る間に草は大きくなり、みるみるうちに天にまで届きそうな大樹へと成長したのです。枝にはたくさんの実をつけており、そのひとつひとつが黄金色に輝いています。まさにこの世のものとも思えぬ美しさです。そのあまりの美しさに見とれていた兵士たちは、次々と弾き飛ばされてしまいました。
「うわあっ」
「ひいっ」
「ひいいいーっ」
悲鳴とともに地面に叩きつけられていく仲間を見ているうちに、しだいに恐怖心がわきあがってきたのでしょう。残っていた数人の兵も逃げ出そうとしましたが、すでに手遅れでした。いつのまにか目の前に迫っていた法師によって捕らえられてしまったからです。
「まったく油断も隙もない奴らじゃな……」
捕まえた兵を縛りあげながら法師がつぶやくと、後ろで見ていた王様が言いました。
「なあ法師どのよ、そろそろ教えてくれんか?いったいどういうことなのだ?」
法師は振り向いて答えました。
「ああ、申し訳ありません。実はこの者たちは、先日お話しした池の底にあった竜宮にいた者どもなのです。なんでも、私があげた不老不死の薬をめぐって喧嘩になり、それが原因で仲違いしてしまったとか……」
「なんと!?では、この者たちがわたしの命を狙っていたのか?」
「おそらくは……」
それを聞いて、王様は真っ青になりました。もしそのとおりなら大変なことになります。なにしろ、この国で一番偉い人が死んだりしたら大混乱になってしまうでしょうから……。
「ど、どうすればいい?」
「ご心配には及びません。こうすればよろしいかと……」
そう言うと、法師は懐からさっきの草を取り出しました。そして、それを口にくわえると、呪文を唱えました。とたんに、辺り一面に光が満ちあふれました。あまりのまぶしさに思わず目をつぶった王様は、しばらくしてから目を開けました。するとそこには、大勢の人々が立っていました。みんな美しい衣を着ており、優しそうな笑顔を浮かべています。王様はびっくりして尋ねました。
「こ、これはいったい何事だ?」
すると、その中のひとりが前に進み出てきて言いました。
「私たちはみな神さまです。あなたが私たちに与えてくださったものをお返しするためにまいりました」
王様はさらに驚いてしまいました。なぜなら、その神たちは全員が同じような姿をしていたからです。しかも、よく見ると、服装だけでなく顔つきまでそっくり同じだったのです。これではまるで……
「き、貴様らは双子だったのか? それとも三つ子なのか?」
そう尋ねると、神様のひとりが答えました。
「いいえ、私たちはもともとひとつだったのです。それがふたつに分かれてしまったので、このような姿になったのです」
そう言われて、王様はますますわからなくなってしまいました。なぜなら、その神はどう見ても男と女だったからです。
「ひとつだっただと? それはどういうことだ?それになぜ分かれたのだ? そもそも、なぜわたしが与えたものを返してくれるというのだ?」
すると、今度は別の神が答えました。
「それは私たちが元はひとつの存在だったからです。つまりですね、我々はもともとは一つの木であったのです。しかし、ある日、私たちの根元に大きな岩が置かれてしまいましてね、そのせいで二つに割られてしまったのですよ。それで仕方なく別々の存在になってしまったのです」
「な、なんだと?そんなことがあったのか?」
王様は驚きのあまり声が出ませんでした。しかし、なんとか気を取り直してたずねました。
「しかし、なぜ今になって返しにきたりするのだ?」
「それはもちろん、あなたのおかげで新しい人生を手に入れることができたからです。あのままでは死んでしまっていたはずですからね」
「そうか……では礼をいうぞ」
「どういたしまして」
そこで王様は考えこみました。
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