第2話

 さて、それからしばらくたったある日のことです。とある国の王さまが、またぞろ旅に出かけようとしておりました。そこへ、ひとりの旅の僧が現れました。王さまは、その僧侶に見覚えがありましたので、馬を止めさせて話しかけました。


「おお、これはいつぞやの行者どのではないか。あれからどうなったかな? もう元気になったのかな?」


 すると、旅の僧はいいました。


「はい、おかげさまで、あのときのことは、もう忘れておりました。ところで、ひとつお願いがあるのですが、よろしいですかな?」

「よいとも。なんでもいってみるがよい」


 すると、僧はにこりと笑って言いました。


「じつは、私は諸国を遍歴して歩いているのですが、この前のようなことがあっては困りますゆえ、ぜひとも護衛を一人つけていただきたいのです」


 それを聞いて、王さまは笑い出しました。


「はっはっはっ……いや失礼。そなたもおかしなことを言うものだな。あれほど強いお供がついていながら、まだ不安なのか?」

「いえ、そういうことではございません。実は、私がいつも連れているのは、私の式神なのです。ですから、ふだんは私の命令にしたがって動きますが、いざというときには役に立たないのです」

「ほう、そうかね? まあ、それならいいだろう。では、さっそく用意させよう」


 そう言って、王さまは家来を呼びつけ、ひとりの武者をつれてくるように言いつけました。まもなく、立派な鎧兜に身を固めた武将がやってきました。それを見たとき、僧の顔が一瞬くもりましたが、すぐに笑顔に戻りました。


「うむ、よかろう。そちの名はなんというのだ?」

「はい、拙僧は蘆屋道満と申します」


 そう答えて、法師は頭を下げました。


「なるほど、変わった名だな。まあいいだろう。それでは早速出発するとしよう」


 そういうわけで、一行はそろって出かけることとなりました。ところが、出立する直前になって、法師がこんなことを言い出したのです。


「恐れながら申し上げますが、私めが供まわりとしてついてゆくことをお許し願えませぬでしょうか?」


 それを聞いて、王様は少し腹を立てたようでした。なにしろ、これまでさんざん苦労して集めたお供たちをすべて置いていかなければならないのですから無理もありません。ですが、法師のほうは平気なものでした。


「なにぶん、あの者たちとは長いつきあいでございます。せめて別れの言葉だけでもかけてやりたいのでございます」

「ふむ、わかった。好きにするがいい」

「かたじけのうございます」


 そういって、法師は家臣たちのもとへ向かいました。そして、一人一人に声をかけていきました。


「お前たち、達者で暮らすんだぞ」

「お世話になりました」

「どうかお元気で」

「さよなら……」


 そんな調子でした。やがて、全員への挨拶が終わると、法師は戻ってきました。その顔には笑みが浮かんでいましたが、なぜか少し寂しそうでした。


「お待たせいたしました。では参りましょう」

「うむ、出発だ!」

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