第3夜

「完璧だよセツト!」

「お褒めに預かり、光栄です。」

深く礼をするセツトの前には、はしゃぐ少女____冷君の姿があった。

深海の瞳はおもちゃを与えられた子供のように輝き。

口元は微笑を超えてほころび、爽やかな笑みを浮かべていた。

そんな彼女の前にあるのはおもちゃ…そう、ある意味があった。


彼らがいるのは地下の一室だ。

むき出し灰コンクリの壁と床。天井から下がる枷つきの鎖、奥に見えるのは白い手術台。揃えられたガラス瓶と、整然と並ぶ銀の器具。

行儀よく並ぶ異様な物たち。だが、今日中央にあるのはそれら以外だった。

革の拘束具がついている椅子。

そこに手首足首を拘束され、一人の男が座らされていた。

口に布紐を噛み、目隠しが顔の上半分を覆う。かなりガタイのいい男だが、その服は破れかけ、所々血と泥とが付着していた。

「最近ひらひら飛んでたグループの幹部かな?生け取り、大変だったでしょ?」

冷君の問いに、セツトはわずかに首を傾げた。

「___いえ、特には。」

冷君は柔らかく微笑む。

「ふふ、セツトは嘘が下手だね。」

一瞬の静寂。セツトは視線を足下に落とした。

「………すみません。」

「いいよー。」

彼女から怒りは感じられない。そのことに彼は安心する。

セツトは嘘をつけない人間では無い。幼少からの環境もあり、それらの事が得意な方だった。

だが、冷君が。

問いに答えるまでの間、一瞬開いた瞳孔。

それらの小さなことを彼女は見逃さなかった。それだけだ。

冷君は微笑んだまま、男の方を向いた。

「…おーい、起きてるでしょ?」

ブーツの爪先が、コツコツと椅子を蹴る。

「今から質問しようと思うんだけど、できれば最初のうちに答えて欲しいなー。できる?」

「………」

男は何の反応も示さない。しかし、呼吸の仕方が変化しているので、起きていることは確実だ。

「……答える気があるなら、頷いてくれるかな?」

「………」

無言。

男はピクリとも動かない。

「____ふーん。」

おもむろに、彼女は近くの机から、ほっそりとしたメスナイフを取った。 

手術などに使われるソレは、地下室の白っぽい明かりを受け、鈍く光る。

冷君はそのまま静かに男に近づくと、拘束された腕に目を向け。


サクリと、突き刺した。


「っ…………⁉︎」

辛うじて堪えられた悲鳴。

だが堪え切る前にさらに深く突き刺される。

にこりと冷君は笑った。

その手には、メスが扇のように広げ持たれている。

「……いつまで黙ってられるか、やってみよ?」



✂︎----------

次回読み飛ばし可能のグロくて痛いパートです。

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