第2夜

綺麗に並べられたカトラリー、膝にかけられたナフキン。

長テーブルには重厚感のある赤いクロスがかかり、銀の皿はシャンデリアを反射して輝いていた。

用意された席は一つ、席に着くのは一人。その側に控える者も一人。

食事はもう終盤である。少女はシャンパングラスを手に取ると、中身を少し口に含んだ。長いまつ毛が頬に影を落とす。

「………ねぇ、セツト。」

「はい。いかがなされました?」

顔を寄せたセツトに、少女はグラスをそっと回してみせた。

ゆらりと揺れる液面は透明で、薄く青い色がついている。栄養剤とフルーツの果汁とを混ぜ込んだミネラルウォーター、なのだが。

「ほんのちょっとだけ……神経毒の味がする。」

彼女はぺろっと舌を出すと、苦笑した。

影の制裁者と呼ばれる彼女は敵が多かった。だが、そのぶん耐性なれもあった。

軽い毒ならば解毒剤すらいらないほどの薬物耐性、などの慣れが。

「……誰でしょう。」

あくまで表情を変えず、セツトはわずかに首を傾げた。

「最近入ったメイドは白だよ。うーん、……半年前からいる子、多分ね。」

「処しても?レイ様。」

言いながらも、彼の手は腰に差した刀へと伸びていた。相変わらずの忠誠心だ。

「______いいよ、うん。」

グラスを傾け、その中身を干して彼女は笑った。

「冷酷君主と呼ばれても、それくらいの慈悲はかけてあげる。」



第三次世界大戦時、日本政府は四十七あった都道府県を再度分割し直し、五十の区とした。

だがその時、『四柱の罪人』というシステムが出来上がった。このシステムは、戦争に貢献したという理由のもと、裏社会を統べる四家に、それぞれ分割領を十ずつ貸与するものである。



推論は当たった。

あの弱々しい毒を盛ったのは、半年前から勤めていたメイドだった。理由は、家族を人質に取られて。だそうだ。情状酌量の余地があるかも。と少し考えたのに彼女はすでに毒を呷っていたらしく、審問の途中で息絶えた。

「_____レイ様、」

「待ってね、セツト」

少女は優しく見えるであろう微笑みを浮かべていた。

しかしその笑みと異なり、彼女からは冷え冷えとした怒気と、どことなく楽しそうな、はしゃいでいるような空気とが漂っていた。

相反していそうなその雰囲気は、何もおかしくは無い。冷酷君主___冷君は、そのような存在なのだ。

冷君はひどく憤っていた。それでも憤りと同じくらい、今から楽しみで仕方がなかった。


自らを強いと思い込んだ愚かな弱者を蹂躙することは、ひどく心地よいものだから。


「___セツト、お願い。」

優しい声が言葉を紡ぐ。

「いらない奴を、狩ってきて?」

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