第396話 親子の絆
「すまないね、遅くなって。私がはやく気づいていれば、あんたも今隣にいたのかねえ?」
雲雀は《高楠家の墓》と書かれた墓石にむかって独り言を呟いた。
「あんたはタオルで体を洗うのが嫌いだったからね。もうすぐ、翼も来るよ!」
墓に話しかけながら、雲雀は一生懸命汲んできた水を使って素手で墓石を洗っていく。
「翼はいい子さ。素直で、友達もできて、師匠の言う事を聞いてどんどん強くなる。あんたの育て方が良かったんだろうね!」
そう言ってからは、雲雀はただ無言でピカピカになるまで墓石を洗った。
墓石が綺麗になると「ふう」と息を吐いて、額に滲んだ汗を赤くなった手の甲で拭いながら立ち上がる。
「どうだい、さっぱりしただろう?」
雲雀の質問に、答える人は居らず、風に揺れる木々の音だけが聞こえてくる。
「返事をしてくれなきゃ、わかんないじゃないかさ」
雲雀は苦笑いで墓石に話しかけながら、鼻を啜った。
「ダメだね。翼が来ちまうよ。安心しな、あんたが立派にここまで育てた翼はこれから私がきっちり育てるからからさ!」
雲雀が墓石に宣言した所で、ガサリと音がした。
「お母さん、ただいま」
「ありがとうね、翼! ほら、綺麗になっただろう? そこの花瓶に花を挿しておくれ」
「うん、ピカピカ」
「そうだろうそうだろう」
雲雀が嬉しそうにはにかむと、翼も少し口角をあげる。
花瓶に花を生け、その後2人はそっと手を合わせた。
「さて、行こうか!」
少しの沈黙の後、雲雀が飴のガワを剥きながら翼に話しかけた。
翼が「うん」と頷くと、2人は墓場を後にするのであった。
◇◆◇◆
私は木の影に背を預け、買ってきた花を胸に抱きながら息を押し殺していた。
少し先のお墓からはお母さんの話す声が聞こえてくる。
まるでお父さんに話しかけるお母さんの姿と表情を見て、すぐに出て行くことはできなかった。
隠れているので見えてはいないが、鼻を啜る音が聞こえてくる。
お母さんの話が途切れたのが分かったので、意を決してお母さんの元へと走る。
「お母さん、ただいま」
私を見たお母さんは、笑顔で私に話をしてくれるけど、少し目が赤いのがわかる。
私に気を使わせないようにしているのが分かって、凄く嬉しく思った。
花をお供えしだ後に線香をあげて、お母さんと並んでお父さんに手を合わせる。
『お父さん、安心して。お母さんが寂しくないように、私が隣で支えるから。お父さんの時みたいに私だけだと難しいかもしれないけど、師匠や火蓮お姉ちゃん、紫音お姉ちゃんやアンナちゃん、マリアさんに他にも沢山。みんなの力を借りて幸せに暮らすから、見守っててね』
心の中でお父さんへの話が終わって目を開くと、お母さんの飴を剥く音が聞こえてくる。
「さて、行こうか!」
「うん」
お墓に背を向けて歩き出した後、私はお母さんと手を繋ぐ。
「お母さん、お墓洗うの冷たかったでしょ? 手が真っ赤」
「体は暑いくらいだよ! 翼、冷たいだろ?」
「ううん、平気」
「そうかい? ありがとうね、あったかいよ」
お母さんがお礼を言って私の手を握ってくれたので、私は「うん」と返事をしてぎゅっとお母さんの手を握り返す。
「まだ時間はあるし、久々にダンジョンを探索して行くかい? 翼がそれに相応しい冒険者として成長しているか見てあげよう」
「まだお姉ちゃん達には届かない。だけど師匠の弟子として恥ずかしくないように頑張ってる!」
私は冒険者免許を取った日にお祝いに貰った橙に光宝石の付いた姉弟子達とお揃いのネックレスを胸を張りながら自慢するようにお母さんに見せる。
「それは楽しみだね。二人で《デュアル・ミキシング・シャイナー》ができる日も近いかな?」
「うん、がんばる!」
お母さんも必死に頑張っているのを見てしまったが、あれは見ないふりをして返事をした。
隣から「それは私も急がないとまずいね……」と言う呟きが聞こえてくるが、それも無視をする。
「ほら、早く行こう」
お母さんからボロが出ないうちに、私はお母さんの手を引っ張って、ダンジョンへの道のりを急かすのであった。
第十章完
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あとがき
また少しずつ続きを書いていきますのでよろしくお願いします!
書籍版一巻二巻も発売中! いい物に仕上がってますので是非買ってください!
お友達にも進めてくれたらすごく嬉しいです!
それと、カクヨムコン10に短編を出しました!
5000字程度の一話読み切りなので、良かったら読んで評価くださいね!
https://kakuyomu.jp/works/16818093073247074077/episodes/16818093073248315694
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