間話・

ある日の夜中、ある事件によって入場規制された公園のなかに、男はビールを持って入ると、公園の一角にどかっと座ると、自分の対面となる場所に持って来たビールの一つを置いた。


その後、もう一つのビールを開けると目の前に置いたビールの缶に乾杯するように当てた後にビールを一口飲んだ。


「なあ飯田、俺達の見ている方向はいつから違っていたんだ?」


男、野村健政は長年連れ添った舎弟の飯田が死んだ場所に向かって問いかけた。


飯田の最後はあっけないもので、予想外の出来事だったのか自分が仕掛けた人の魔物化の影響で巨大化した野村の父親達に潰されるという間抜けなものであった。


その為、飯田の恨み節のような言葉は聞いたが、いつからそう思っていたのかさえ分からない。


健政には昔から一貫して貫き通して来た思いがある。

自分の笠の下に入って来た人達の過ごしやすい場所をつくる。


飯田は、その為にずっと隣で支えてくれた右腕的存在であると思っていた。


しかし、裏で自分を蹴落としていたのはその相棒であった。


自分を亡き者にして成り代わろうとしたのか、健政が絶対的に守らせていた薬物の禁止を破り蔓延させたのも飯田で、それどころか飯田の死体からは薬物反応がしっかりと確認されている。


飯田も、過去に囚われた人間の1人だったのか、今となっては分からない。


ただ、冒険者だった時代から、自分達の住みやすい場所を作るというのが目的だったはずである。


「ここは、立ち入り禁止のはずですが?」


声をかけられて健政が振り向くと、特課でのパートナーである永井が立っていた。


しまったという顔をする健政に対して、永井はしたり顔で後ろに組んでいた手を片方自分の顔の横に持ってくる。


その手にはビールの缶が握られており、そのまま永井は健政の隣に腰を下ろしてビールの缶を開ける。


「これで共犯だな。俺も咎める事はできない」


そう言って永井はビールをグイッと煽った。


「まずい! やっぱり酒は苦手だ!」


「ならなんで飲んだんだよ」


永井の行動に健政は呆れ顔である。


「酒の席だ、愚痴があるなら溢せ。溜め込んで思い詰めれば人は悪い方へ歩いていく。そうなってからでは遅いんだ」


健政は永井に愚痴をはいた。自分の目指していた場所。慕っていたと思っていた舎弟達は居なくなり、自分の思いは間違っていたのかという思いを永井にぶつけた。


永井は何を指摘する訳でもなく、ただただ健政の話を聞いていた。


健政の愚痴が終わった後、永井は口を開く。


「なるほど。なんで君を坂井さんが拾ったのか分かったよ。健政、君は父の後を継ぐべきだ」


「はあ? なに言ってんだ?」


「君が目指す先は裏のドンなんかじゃなく、表に立つ政治家なんだ。父親のようになる訳じゃなく、都民、国民を守る為に政治家に成るべきなんだよ。多分、坂井さんは君を酒井さんの後継か、黒田総理の後継に育てる気なんじゃないかな?」


永井の予想を聞いて健政は胡散臭そうな顔をした。


「んなまさか」


「そうでもないぞ? お前にその意思があれば俺はそのつもりだ」


健政が永井と地べたに座って酒を飲む場所へ、坂井がいつの間にか現れた。

いつものように戯けた関西弁ではない真面目な標準語を話している姿には違和感があった。


「ただお前が目指すドンではなく魔王の宰相か隠密のような立場だがな。だが、お前が目指す笠の下の人達を守る為には最適な場所になるだろう」


いつもより大きく見える坂井の雰囲気に健政はゴクリと唾を飲み込んだ。


「まあ、今はまだ新宿の要件を済ますのが先やけどな!」


坂井はいつもの言葉遣いと雰囲気に戻すと自らも地べたに腰を下ろした。


「俺もいっぱいやるかな。たまには外で飲むのもええやろ」


なぜか坂井も持参したビールを開けると、盃だとでも言わんばかりに健政に向かってビールの缶を差し出した。


これまでの、長い物に巻かれるように所属した特課の仮契約から本契約に判をつくように、健政は坂井の缶に自分の缶を当てるのであった。



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あとがき 


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