第381話 終わらない?

「よかったね、私が理性を保っててさ!」


雲雀が一足飛びに翼の叔母に近づくのに、魔石によって変身したチンピラは誰も反応することができなかった。


顔面を殴られ「べふぅ」と口から間抜けな空気を漏らしながら翼の叔母は地面を転がった。


「ああ、痛い! 私の私の顔が!」


冒険者に殴られたにも関わらず翼の叔母は起き上がって悲鳴を上げることができた。

数千万かけた自慢の顔も鼻が折れるなどして激痛にのたうっている。


「すぐに気絶できるなんて思わない事だね!」


雲雀にやられる翼の叔母を助ける者は居なかった。

助けお求める声に動き出そうとするチンピラは居ない。


唯一助けようと動いた愛人の健太郎であったが、冒険者の暴力に手を出せずに翼の叔母が殴られる様を見ながら「助けろ!」と手下のチンピラに叫んでいる。


健太郎が叫んでいるのになぜチンピラ達は動き出さないのか。


それは足や腰の辺りまで魔法で凍らされて動く事ができなかったからだ。


雲雀が翼の叔母に殴りかかったのと同時。


黎人によって邪魔になりそうなチンピラ達は動かないように凍らされ、翼は教育上良くないと黎人に後ろから手で目隠しをされていた。


今の雲雀の姿は怒りで翼の叔母を嬲るように凶悪な顔をしており、正義のヒロインに対抗してでやって来たにしては翼に見せるようなものではなかった。



「ほらな。彼の方達は俺らの想像の上なんて軽く超えていく方達なんだよ」


健政の肩をポンと叩きながらなぜか自慢げに永井が語っている。


「ほんだら逮捕してくで。抵抗する奴がおったら俺か芽衣亜にいいや。ひまわりと氷那でもいけるか?」


その後、せっかく変身したのにも関わらず戦う事なくチンピラ達は逮捕されていく。


初めは抵抗しようとしたが、仲間が坂井に物凄い轟音と共に殴り飛ばされて凍って地面に張り付いた足と体がおかしな方向を向いて気を失ったのを見て、大人しくお縄についく事にしたようだ。


今は変身も解除し、普通に逮捕されている。


チンピラ達も捕縛され、ボコボコにされ酷い顔になった翼の叔母もようやく気を失うことができた。


健太郎や健二は逃亡を測ったがそんな事できるはずもなく、無事捕縛されて順番に護送車に移動させられて行く。


「いやあ、黎人、すまなかったね」


自分がボコボコにした翼の叔母と黎人に目隠しをされた翼を交互に見て、怒りのあまりタガが外れていたのだと苦笑いを浮かべながら雲雀はお礼を言った。


「流石にあの戦い方は見せるべきではないでしょう。カッコよく登場したなら最後まで正義のヒロインで居てもらわないと」


「すまない。あれを聞いたらついね」


黎人に責められ、雲雀はタジタジといった様子である。



「このまま終わって貰ったら計画が丸潰れなんだよなぁ」



事態が収束仕掛けた時、苛立ったような声が公園に響いた。

声の主は、気絶した翼の叔母や健太郎、健二の横にいつの間にか立っていた。


「飯田?」


護送車にチンピラを運んでいた健政が聞き覚えのある声に振り返った。


「健政さん、あそこで死んでなかったなんて悪運が強いですね」


突然現れた飯田は健政の右腕だった男だ。

健政が刺され坂井に拾われた時から姿を消していたのだが、今まで見せたことのない軽い雰囲気に健政は戸惑った。


飯田は喋りながら薬と魔石を目の前にいる3人に投与していく。


「た、助けてくれ。お前の言う通り動いて来ただろう?」


「どういう事だ?」


健太郎の言葉を聞いて健政が質問をした。その言葉に懐かしむように飯田は答える。


「昔は良かった。だけど牙を抜かれたあんたを見ているのは耐えられないんだ。だから、俺があんたを終わらせてやる」


飯田の焦点はどこか合っておらず、考え事や妄想をしているようにボーっとしながらも言葉ははっきりしている。


「ほら、今与えられる一番強い薬だ! 全部めちゃくちゃにしてしまえ!」


飯田が楽しそうに笑うと目の前の3人が肥大化して重なり、一つの化け物へと変わっていく。


胸の辺りに大きな魔石が剥き出しになり、階級進化のような光を発した。


ビルのように巨大化していくスピードは物凄く、近くに居た飯田は笑いながら潰されてしまった。


「氷那、氷を使ってアレを見えないようにしろ!」


「はい!」


氷を鏡のようにして一般人の目から階級進化した魔物を見えないようにする。


「黎人、力を貸しな。私は翼にお母さんもプリティバトラーみたいに戦えるってとこを見せたいんだよ」


「俺1人で何とかなるけど?」


「いいから耳貸しな!」


雲雀は黎人の肩に手を回すとヒソヒソと耳打ちをした。

その内容がどんな物だったのか黎人は嫌そうな顔をして雲雀を見る。


しかし、こうなった雲雀を止める事を知らない黎人はため息を吐いて頷くしかなかった。


そんな話をしている間にも階級進化は進んでいく。


「じゃあやるよ! 黎人! 翼、お母さんのカッコいい所をちゃんと見とくんだよ?」


翼はテレビの前で笑いながら話すような態度の雲雀の姿にコクリと頷いた。


「ほら、黎人早く!」


黎人は指示されるがままに雲雀の手を握った。


「これ、俺の方が負担大きいんだけど? あれ、階級進化起こしてるし」


「今日くらい私に見栄を張らせなよ。いいかい、掛け声は——だよ」


黎人と雲雀はボソボソと話した後、手を繋いだまま構えをとった。


「「デュアル・ミキシング・シャイナー!!」」


雲雀と黎人はアニメ《プリティバトラー》の必殺技を叫ぶと、それを再現するように2つの魔法を混ぜて階級進化した3人に放ったのであった。



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あとがき 


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