第371話 アルバム
坂井に連れられて翼と黎人は部屋へ入る事ができた。
「永井、捜査の状況はどんな感じや?」
「はい。指紋なども取り終わっていますしもうする事はないですね」
「そうか。やそうや。レイ坊、持ってってもええで」
黎人からここに来た事情を聞いた坂井はそう黎人に言った。
「だそうだ。翼、場所は分かるのか?」
翼は黎人の方を振り向いた後にコクリと頷くと奥の押入れの方へ向かう。
捜査のために部屋が荒らされてはいるが、押し入れの中から翼はアルバムを取り出した。
ホッとした様子で翼はアルバムのページを捲る。
表情の変化は分かりにくいが、目を潤めながら細めるとアルバムの写真を撫でた。
「ほな目的のもんもあった事やし場所移そか。翼ちゃん、辛いかも知れんけどお父さんが亡くなった時の事聞かしてくれるか? いくらレイ坊の庇護下とは言え聞かなあかんこともあんねん」
坂井の提案に翼はゆっくりと頷いた。
「私は中学生だったから叔母さんに聞いただけだけど過去を見る薬の大量摂取で死んだって。お母さんからの仕送りも全部薬に消えて借金でどうしようもないんだって言ってた」
黎人の家に場所を移動した後に翼は坂井の質問に答えていく。
翼の家から見つかったのは《エリクサー》とは違う薬物であった。
正確に言うと《エリクサー》に混ぜられている薬物を使った
この薬物が流行り始めたのは日本大恐慌が終わった辺りからで、使用する事で自分が楽しかった過去を見る事ができるという薬物で、アルツハイマーに似た症状が出る事が名前の由来である。
「過去の調書を見ても同じようなもんやな。せやけど、こん時にあの薬が見つからんかったのが引っかかるな」
坂井はタブレットを見ながら翼の話を聞いてそう言った。
「あの、あの家に引っ越したのはお父さんが死んだ後。借金があるし、一人暮らしはに広い家は必要ないからって叔母さんが……」
「なんやて! やからか、あの家の捜査が始まる時に翼ちゃんの情報が出てこんかったんわ! 翼ちゃん、叔母さんに連絡取れるか?」
「おい坂井、圧が強い」
翼の話を聞いて机から乗り出して質問する坂井の様子に翼は逃げるように体を背もたれの方に目一杯寄せている。
「おうすまんな! で、連絡してくれるか?」
坂井の質問に翼は横に首を振った。
「叔母さんからは生活費が振り込まれるだけで連絡が取れない。電話も繋がらない」
「そうか。せやったらカードを調べさしてくれへんか?」
翼は坂井の質問に頷かずに黎人の方を見た。
「預けたらいい。坂井はこんなのだが信用できる。翼の生活は俺が面倒見るからとりあえず今はカードは要らないからな」
「わかった」
翼は財布の中から銀行のカードを取り出すと坂井に渡した。
その後、坂井は翼の叔母の名前を聞いて捜査へ戻って行った。
その日の夜、夕食が終わった後、翼が懐かしそうにアルバムを見る横で火蓮と火蓮の膝に座ったアンナが一緒に覗き込み、翼の話を聞いている。
その様子を黎人と紫音はコーヒーを飲みながら見守っているのであった。
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あとがき
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