第368話 虚言

Mrs.チャイナマンこと高楠雲雀は着替えながら尋ねてきた芽衣亜と話している。


「で、あたしに会いに来るなんて、男でも紹介して欲しいのかい? 生憎私は今は金の亡者で男っ気は無いよ」


「残念ながら私結婚したんですよ。今は芽衣亜・F・坂井です!」


芽衣亜は昔のように揶揄ってくる雲雀にドヤ顔で左手の指輪を見せつけた。

それを見た雲雀の表情が驚愕に染まる。


「な、あんたを貰いたがる男がいたのかい? かわいいのに凶暴で男が逃げ出して寄って来なかったあんたに?」


「失礼な!」


雲雀の言いように芽衣亜は文句を言った。


「事実だろう。そんで、あんたの旦那の写真はないのかい? やんちゃ娘のキバを抜いた男の顔を見てやるよ」


芽衣亜の苦情を気にした様子もなく、雲雀はかわいい後輩の惚気話でも聞こうと笑った。

家族を失った自分にはもう手にできないものだったので、アドバイスなどできないので祝ってやることしかできない。


「何言ってんですか。雲雀先輩も知ってるでしょ?」


「はぁ⁈ 坂井って、あの坂井かい? 老け顔の? 仲良かったのは知ってるけどお互いお前だけはないって罵り合ってたじゃないかい!」


「そんなこともありましたねえ」


雲雀が驚く姿を見て、芽衣亜は恥ずかしそうに笑っている。


「わかんないもんだねえ。でも、その顔ができるなら幸せなんだろうねえ」


雲雀は芽衣亜の幸せそうな顔に優しく微笑みを浮かべると話題を変えるように話を続ける。


「でも、こんな所まで惚気話しに来たわけじゃないんだろ?」


「はい。雲雀先輩、今ご家族、娘さんがどうしてるのかはご存知ですか?」


先程までとは一転、芽衣亜は真剣な表情をして雲雀に質問をする。

それに対して雲雀はなんでもないような感じで返事をする。


「知ってるよ。今高校生に上がったんだろう? 日本は馬鹿みたいな円安で大変だよね。でも、私はあの人と翼が幸せならそれでいい。その為に、こんな地下に閉じこもって金を稼いでるんだ」


「雲雀先輩、その話誰に聞いたんですか?」


「誰って、あの人が毎月手紙をくれるんだよ。翼が元気に成長して学校で友達と楽しく過ごしてるってさ。日本の情勢的に冒険者だった私は一緒に居てやれない。私が近くに入れば、冒険者の家族ってだけで後ろ指指されて石が飛んできてもおかしくない。たしかに離婚の時、翼を置いて出て行く時は悲しかったよ。でも、向こうの家族の言う通りなんだ。仕方ないさ」


雲雀は悲しそうに表情を無くしてロッカーを開けて小学校位であろう翼と自分の写る写真を見た。


「やっぱり。先輩、旦那さんが亡くなったのご存知ないですよね? 翼ちゃんが犯罪に巻き込まれそうだった事しらないですよね?」


芽衣亜の言葉に雲雀が物凄い形相で芽衣亜の襟を掴み、ロッカーに勢いよく押さえつけた。


「どう言う事だい! あの人が死んだって? あの子が犯罪? 嘘言うんじゃないよ!」


「雲雀先輩、落ち着いて……」


苦しそうな顔で話しかける芽衣亜の襟から雲雀はハッとした様子で手を離した。


「すまない。でも、あの人からは先週も手紙が来ていたし、私のここでの稼ぎのほとんどを送ってるんだ。病気になったとしても死ぬような事になるはずがないだろう? あの子だって、私立の環境のいい学校に通って友達と楽しく過ごしてるんだろう?」


雲雀の顔は、芽衣亜にそうだと頷いて欲しそうな顔であった。

しかし、芽衣亜が先程の話を冗談だと否定することはない。


「雲雀先輩、残念ですけど本当です。幸い、翼ちゃんは犯罪に巻き込まれる前に五郎が保護して今は黎人ちゃんが面倒を見てます。私が雲雀先輩を探してここまで来たのは先輩の旦那さんの死亡が日本で今起こっている犯罪に関わっているかもしれないからです。雲雀先輩、さっき手紙が届いているって言いましたよね? 一体それは誰からなんでしょうか? 捜査に協力してくれませんか? 翼ちゃんの過ごす日本の未来のために」


芽衣亜の言葉に雲雀はゆっくりと首を振る。


「あの子の為に協力したいのは山々だ。だけど、私はこの地下の籠の鳥だ。契約に縛られて外に出ることができない。家族の為にそれを選んだのは私だ。過去の自分が馬鹿だったとしても—」


「こんな事、我らが魔王の力を使えばどうとでもなりますよ! 雲雀先輩、日本へ戻って来てください」


芽衣亜は諦めの言葉を発した雲雀に笑顔で語りかけたのであった。



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あとがき 


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