第367話 Mrs.チャイナマン

プロレス、ボクシングetc……格闘技とは人を熱狂させる娯楽の一つである。


それが、ステータスが上がり、魔法という要素がプラスされれば更に観客は熱くなる。


しかし、普通の格闘技でも下手をすれば死人が出てしまうのに、対戦する相手のステータスが高ければ、魔法を使えば、危険は大きくなる。


ステータスが上がった人間が行うこれまである格闘技は階級を増やす事で認められているが、魔法などを併用した冒険者としての戦いを商業化する事はどこの国も法律で禁止していたりする。


しかし、法律で禁止されていようと金が絡めばアンダーグラウンドな場所では行われるのが世の常である。


冒険者バトルに関しても、アメリカや中国の地下闘技場で行われている。

非合法だからこそ、大きな金が動き、非合法だからこそ、地位のある人間が関わって黙認されている。

今日も、アメリカの地下では注目のカードの対戦があった。


「今日も無敗記録は破れる事はないのか? 無敗の女王! Mrs.チャイナマン!」


実況に紹介されて入場してくるのはこの地下闘技場で無敗のファイターだ。

マスクを被って顔を隠した謎の人物。肌の色からアジア人であると噂されている。


黒に金の刺繍が入ったアオザイを着たスラリとした女性だが、ガタイの良い男であろうと素手で殴り飛ばして王座を守っている。


このファイターを倒すファイターが現れるのかどうかで、連日盛り上がり、莫大な金が飛び交っている。


今日のMrs.チャイナマンの対戦相手はAランクまでいったアメリカ人冒険者の男性で、引退の為にファイトマネー求めて参加してきた。


「こんな掃き溜めの王座をやっていたのを後悔するといい」


冒険者の男はこの闘技場を馬鹿にしていた。

冒険者とはランクが上がるとどの職業よりも稼げると言われる職業だ。

魔石のインフレでエネルギー供給過多になりレートは落ちてきているが、それでも上級冒険者の稼ぐ額は凄い。


なのに、冒険者をせずに非合法な格闘技をしているという事は、冒険者では食っていけなかった負け犬だと思っている。


男が参加したのは、そんな負け犬の大将を倒せばAランク冒険者をやるよりも大きなファイトマネーを手にできるからであった。


男の挑発の言葉を聞いても、Mrs.チャイナマンはトレードマークのマスクの口には、いつも通りカラカラと棒付きの飴を舐めており、挑発に反応することはない。


挑発になってこないMrs.チャイナマンに男は苛立って声を大きくして怒鳴るように言葉を発する。


「ビビって言葉も出ないか! すぐに終わらせてやるからな!」


二人が所定の場所について戦闘開始の合図を待つ。


「弱い犬ほどよく吠える、か」


Mrs.チャイナマンがそう呟いて舐めていた棒付きの飴を噛み砕いたのと試合開始のゴングが鳴るのは同時だった。


冒険者の男が素手のMrs.チャイナマンを馬鹿にするようにバスターソードを構えて牽制のために魔法で火の玉を飛ばしだ後にMrs.チャイナマンに突っ込んだ勢いのままバスターソードを振り下ろした。


「本当にAランクなのか?」


Mrs.チャイナマンは振り下ろされるバスターソードを回し蹴りして中程から折った。


折れたバスターソードをみて、冒険者の表情が驚きに変わる。

《orichalcum》ではないが、Aランクの魔物を倒すように作られた一級品の武器だ。それを、武器を使わずに回し蹴りで折るなど上級冒険者でもできる人は少ない。


武器を壊した後、Mrs.チャイナマンは次は冒険者の男の腹を殴り飛ばした。

男は吹き飛んで壁に激突した後、気絶してしまった。

骨が折れていることが予想される為、冒険者の男はタンカで運ばれていく

すぐに王者であるMrs.チャイナマンに挑戦できるわけではないので、Mrs.チャイナマンに挑戦できるだけで人気ファイターではあるのだ。


今日も圧倒的強さで王座を守ったMrs.チャイナマンには倍率は小さくとも大金をかけていた者からは歓喜の声が、大穴を狙っていた者達からはブーイングが飛ぶ。


ただの物凄いパンチだが、Mrs.チャイナマンという名前から「中国拳法! fantastic!」などという歓声も上がっている。


Mrs.チャイナマンは、その歓声に答える事なく、控室に帰っていくのであった。



Mrs.チャイナマンが控室に帰ってくると1人の女性が待っていた。


「Mrs.チャイナマンってなんですか? 女性なのにマンだし、アオザイ着てるのにチャイナって……」


「あ! もしかして芽衣亜か? 芽衣亜・ハワード? 久しぶりだね、大きくなった、いや、老けたねえ?」


「なんて事言うんですか! これでも歳を取らない美女で通ってるんだよ?」


芽衣亜はMrs.チャイナマンの言葉に顔を膨らませた後ため息を吐いた。


「悪かったよ。それにしてもここをよく見つけたね」


リングの時と違って笑いながら芽衣亜に話しかけながらMrs.チャイナマンはマスクを外した。


「ほんと、探しましたよ。雲雀先輩」


マスクを外したMrs.チャイナマンの正体は、翼の母親、雲雀なのであった。



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あとがき


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Xでは、その後も書籍の情報をポストして行く予定ですのでフォローもしてくれたらとても嬉しいです!


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