第366話

病院のベッドで、野村健政は目を覚ました。


「俺は? ぐっ」


なぜ病院に居るのかを考えた時、脇腹に鈍痛を感じて状況を理解した。


「はっ、助かったのか。俺も悪運が強いな。ここまで運んでくれたのは飯田か?」


「残念やけどな、お前が倒れとった場所には誰もおらへんかったで」


健政は横から声をかけられてハッとした様子で声の方を向いた。

ベットの横のパイプ椅子で、色付きメガネにアロハシャツを着た怪しい男が足を組んで扇子を仰ぎながら健政を見ていた。


男はパチンと扇子を閉じると続きを話し始めた。


「ここはな、警察病院や。新宿で倒れとったお前を助けたんは警察やで、元新宿のドン野村健政君」


「坂井……五郎」


「なんや、俺の事知っとるんか? やるやないか」


アロハシャツの男、坂井五郎は色付きメガネを少しずらすようにして健政を見た。


「お前はあの日新宿で血ぃ流して倒れとった。それを俺が助けたったんや。感謝しいや」


「何の……為に?」


健政の質問に坂井はニィと歯を見せて笑う。


「野村健政、もう一度新宿の裏を牛耳る気ぃはないか? 今度は俺の犬としてやけどな」


「な!」


健政は驚きのあまり言葉を無くした。

まさか政府の重鎮である坂井五郎からそのような誘いがあるとは思っていなかったからだ。


「おかしいか? お前が締めとった時の新宿な、ある意味で平和やった。弱い者達の拠り所。しかしお前のお陰で治安が保たれとった。今のように、弱い物を食い物にする場所とは違う」


今の新宿は薬物エリクシルが蔓延して一般の枠からはみ出した者達を食い物にし、再起の目を潰す。

健政がまとめていた時代の新宿は薬物など違法な商売を禁止しており、弱い者はそこで羽を休めた後に希望を見つけて飛び立つ者も居た。


坂井はその時代の新宿へ戻したいと考えていた。

新宿だけでなく、日本から《エリクシル》を無くしたい。


「お前は父親のようなアホとは違うからな。どうや? 俺の下に来やんか?」


健政は坂井の言葉に苦虫を噛み潰したような顔になる。

健政を追い出し、今の薬物蔓延る新宿を作ったのは何処からか上級冒険者と同等の力を手に入れた健政の父野村健太郎と弟の健二であった。


二人はその力で健政を追い出し、自分達の私利私欲の為に薬物をばら撒いた。


「俺はここにいる時点で首を縦に振るしかないんだろ? でも、それでもいい。俺の理想を取り戻せるなら、犬になってやる」


「ちゃうで。俺に使えそうやって目ぇつけられた時からお前は首を縦に振る運命なんや」


「あんた、意外と傲慢なんだな」


坂井の差し出した手を、握り返しながら健政は嫌味を言った。

それを聞いて、坂井は笑みを深める。


「傲慢かどうかは、これから分かるわ。ようこそ、特課へ」


こうして健政は坂井に拾われ特課へ入るのであった。


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あとがき 


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