第365話 ルール改訂
お昼の準備をしてレジャーシートを広げていた火蓮は、翼に声をかけられて振り返って微笑んだ。
「なにって、お昼の準備よ。懐かしいわ、上のダンジョンに行けばこんなに綺麗な草原はないから。ね、師匠!」
火蓮は懐かしむようにして黎人に話しかけた。
「そうだな。だけど火蓮、」
「君達、なにしてるんですか!」
苦笑いで黎人が火蓮に何かを言おうとした時、他の冒険者が声をかけてきた。
「ああ、すまない」
「私はこのダンジョンの見回りをしている《椿アドベンチャラー》の冒険者で中川と言います。Gクラスダンジョンとはいえ、そのようなシートを広げる危険行為はやめてください」
声をかけて来た冒険者は冒険者ギルドが依頼している見回りの冒険者であった。
以前は万里鈴がGクラスダンジョンの見回りをしていたが、万里鈴は育休中の為、別の冒険者に変わったのであろう。
「え、ダメなんですか?」
火蓮は驚いた様子で見回りの冒険者中川に質問をした。
火蓮は駆け出しの頃に黎人とこうしてダンジョンでビニールシートを広げてお弁当を食べた事があったからだ。
「ダメに決まっているでしょう! 何を考えて……柊火蓮さん! なんで貴方がGクラスに? 確かに貴方程の方なら平気でしょうが、しかし……」
ビニールシートを広げていたのが高ランク冒険者の火蓮だと認識した見回りの冒険者中川は、少し考え込んでしまった。
「いや、君の言っている事の方が正しいよ。注意してくれてありがとう。火蓮、昔のダンジョンは無法地帯だったけど、俺が買い取ってからルールが厳しくなっただろ? その時に追加された新しいルールなんだ。初めに言っておくべきだったな。すまない」
黎人もまさか火蓮が懐かしんでピクニックの用意をしてくるとは思っていなかった。
確かにいい思い出だが、多くの冒険者を守るルールとして、今はダンジョン内での野営行為は禁止である。
ピクニックもそれに当てはまるだろう。
まあほとんどの人は、魔物が跋扈するダンジョンで野営、ましてやピクニックをしようとは思わないわけだが、黎人がギルドオーナーとなり、冒険者マネジメント会社ができる前には金を稼ぐ為に泊まり込みで無茶をして事故を起こす冒険者がいたという例がある。
その為、ルールとして追加したのだ。
「そうなんですか。それじゃあ仕方ないですね……」
火蓮は残念そうにビニールシートを空間魔法にしまう。
「えっと、貴方は?」
黎人に行動を肯定された見回りの冒険者中川は、ルールに詳しい黎人が誰か分からずに質問した。
「俺は春風黎人とい——」
「ギ、ギルドオーナー!」
見回りの冒険者中川は、黎人の名前は知っていたようで、名前を聞いて背筋を伸ばした。
「俺が先に注意すべきだったのにな。ありがとう」
「い、いえ! それでは、私は見回りに戻りますので」
見回りの冒険者中川はそう言って去って行った。
その後、黎人は、しょんぼりとしている火蓮に声をかける。
「火蓮、もうダンジョンではできないけどさ、今度アンナも連れてピクニックに行こうか」
「そうですね。ルールじゃ仕方ありませんから! 翼ちゃんも一緒に行きましょうね、ピクニック!」
今まで、黙って話を聞いていた翼は首を傾げる。
「それって、私も行っていいの?」
「勿論です! 紫音ちゃんも誘って家族全員で行きましょうね!」
火蓮の言葉に、翼は嬉しそうに少しだけ口角を上げた。
「うん。楽しみ」
「それじゃ今日は一旦家に帰って火蓮が作ってくれたお弁当を食べようか」
こうして、お昼は一度家に帰って、お昼を食べながら翼は黎人と火蓮にアドバイスをもらった後、もう一度ダンジョンに戻ってお昼からの指導を受けるのであった。
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あとがき
今回の懐かしいピクニックの話は書籍版『願ってもない追放後からのスローライフ?』に追加エピソードで収録!
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