第214話 倒産

《アドベントアドバイザーズ》社長の古谷は、数日で帰って来た社員に溜息を吐いた。


1人は、面接を受けた時点で戻ってきた。


中途採用だと、うちの会社の経験を無視して、給料の安い底辺の社員としてこき使おうとしてくるヤバい会社だと言って帰って来た。


2人は試用期間でクビになって帰ってきた。


底辺社員に割り振られたが、潜入の為に我慢して入社したそうだ。


しかし、指導冒険者の指導する内容が、あまりの効率の悪さに呆れてしまったそうだ。


働いている以上、給料が前よりも下がって生活レベルが下がるのは嫌なので効率のいいやり方を進言したら左遷されて指導員のランクを下げられたのだそうだ。


戻って来た社員達は口を揃えてうちの会社の方が稼げるし向こうは大手のネームバリューだけに過ぎない。などと言うが、本当にそれだけならアドベントアドバイザーズよりもタソガレエージェンシーが人気になる理由が分からない。


冒険者ではない役員達は売り上げが減っている方への危機感のせいで、定例会議ではいつもピリピリしているのだが、この冒険者達は、経営には関わってない上、まだ給料が下がっている訳ではない為に、危機感がなく「そのうちこっちのがいいって理解されますよ」などと言っている。


百貨店の赤字分をこの冒険者マネジメント会社の売り上げで補っていたのだが、今のまま下り続ければ、それもできなくなってしまう。


冒険者を潜り込ませても何もつかめなかった。


売り上げが下がっている最大の原因、所属冒険者の減少については度々会議で議題に上がる。


いや、最近ではこればかりだ。


そんな定例会議で、解決策も無く、売り上げだけが下がっていく現実に、役員の何名かが痺れを切らした。


「冒険者の減少が止まらないのであれば冒険者を今より優遇して人員を増やせばいいのでは?」


「そうだ。昔からポイント還元などを増やせば会員数は増えていたし、還元率が減れば改悪などと言って会員数は減っていった」


「会社の取り分を20%から15%に引き下げて、給料アップのイメージをつけて冒険者の登録数を増やし、他にかかる費用を場合によっては引き上げて帳尻を合わせればいい!」


役員は、百貨店経営の役員が大半だ。


それに、先代、古谷の父の時代からの役員も多く居る。


古谷としては、冒険者の社員が増えるかわからないまま、なぜタソガレエージェンシーに冒険者が流れているのかの原因が分からないままに踏み切るのは危険だと反対したのだが、会議の結果、賛成多数で押し切られてしまった。



アドベントアドバイザーズは、魔石の還元率の引き上げを全面に打ち出して、大々的に新規冒険者を募集した。


結果、アドベントアドバイザーズの冒険者はタソガレエージェンシー参入以前に戻ることは無いものの、多くの冒険者を社員とするに至った。


それにより、一旦の経営回復に繋がり、会議では、推し進めた役員達の得意げな顔と反対していた古谷への小言が多かったものの、内心、うまくいった事に古谷は胸を撫で下ろした。



しかし、とりあえず冒険者確保に動き、タソガレエージェンシーの様にしっかりとした面接無しに採用した結果、集まった冒険者はタソガレエージェンシーの面接や試用期間で落とされた素行不良の冒険者達が大半であった。


冒険者が増えた為、売り上げは増えた。


しかし、元々所属していた冒険者達は後輩から何かにつけて巻き上げたく、新規所属冒険者はそれに反発するので諍いがたえず、挙げ句の果てには他社やフリーランスの冒険者の成果を盗んで業績を上げようとする冒険者まで現れてしまった。


アドベントアドバイザーズ所属冒険者の悪評は広がり、遂には冒険者ギルドの方からダンジョンの秩序を守る為に問題を起こした冒険者とアドベントアドバイザーズに、ダンジョンの入場権剥奪処置が出されてしまった。


世界初の冒険者マネジメント会社のブラックリスト入りと言う汚名を被って、アドベントアドバイザーズは倒産したのであった。

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