第213話 中途採用指導

「青葉さーん、聞いてくださいよー、あ!すいません!」


青葉は、ダンジョンの指導から会社に戻って来るなり、以前に指導をしていた後輩に声をかけられた。


「おう、大丈夫だ。もう終わるからちょっと待ってな。それじゃ、星空は明日明後日は自由探索な。春風さんに迷惑かけない様に。他は学校終わったら17時集合で、休みとか遅れる場合は12時までに連絡な。今日の成果報告をしたら帰宅していいぞー」


青葉の前に集まっていた冒険者達は、青葉の号令で解散していった。


「青葉さん、すいませんでした。まだ解散していなかったのに気づかなくて」


「まあそれだけ切羽詰まってだんだろうが、次からは注意しような。それで、どうした……いや、ちょっと移動しようか」


青葉は後輩の話を聞く前に、ロビーではなく、ゆっくりと話を聞ける場所に移動して、自動販売機でコーヒーを買って後輩に紙コップを渡した。


「ミルクだけで良かったよな?」


「あ、はい。ありがとうございます」


「おう、それで?」



後輩は、青葉にポツポツと相談をしはじめた。


前回の面接希望者5人の内、《タソガレエージェンシー》に就職したのは4人であった。


この後輩は、青葉から学んだ後、指導冒険者の試験をクリアして、何組かの冒険者を育てた実績がある。


そして、自身も指導の後にダンジョンへと通い、若くして冒険者ランクもBランクに上がっている。


その為、会社から期待を込めて、ステップアップの為に難しい中途採用の冒険者ランクCを含む社員の指導を任された訳なのだが……


「ランクが上がるだけであんなに統率が取れなくなるんですか? 自信無くしますよ」


どうやら新しく入った社員が、指導を聞かずに、こうやった方がいい、この指導は間違っている、俺のやり方はこうだ、やっぱりこんな低ランクのダンジョンでは以前よりも魔石が少ない、30%も取られていくのにこれじゃ前の会社の方が給料が良かった。などと文句を言って指導の邪魔をして指導が進まないそうだ。


「中途半端に他社の経験があると難しい部分はあるよな。それで、全員がそんな感じなのか?」


青葉の質問に後輩は横に首を振った。


「元々他所で指導冒険者をしてたって言う2人ですね。残りの2人は一生懸命指導を受けてくれます。他社に比べて防具や武器の安全面が充実してるから思い切って探索に励めると言って探索後に質問に来てくれる程やる気があるんです。それもあって指導がちゃんとできないのが申し訳なくって……」


以前に指導冒険者をしていたからこそのプライドなのか。後輩はランクは高いものの年齢は若めなので、舐められてしまうのかもしれない。


しかし、若いと言うだけで上司に楯突くのは、会社に勤める社会人として論外の行動である。


「試用期間の終了を待たずに解雇でもいいんだが、一回俺が見てみるか?」


「お願いしてもいいですか? やる気のある2人はしっかり面倒見ますので」


「分かった。あさぎさんに報告して明日から見るわ。俺夕方まで空いてるから」


青葉が2人を受け持つ事により後輩の指導をしっかり受けた中途採用の冒険者は、数ヶ月でランクを一つ上げるまでに成長する。

この2人はDランクだった為、上がりやすかったと言えばそれまでだが、立派な成果である。


一方、青葉が受け持った2人は、指導冒険者チーフが面倒を見ると言う事で対応は上がっているのだが、青葉のランクがCである為、結局下に見てまともに指導を聞かなかった。


それどころか、新しく入って来る冒険者志望のアルバイト学生達に、「この会社で冒険者を目指すのは損だ。《アドベントアドバイザーズ》の方が稼げるし向こうにした方がいいぞ」などど言って絡み始めた為に試用期間の終了を待たずに解雇されたのだとか。


その2人が、その後どうしたのかは、青葉やあさぎ達の知る所ではなかった。









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