第209話 正義の裏表
ここで、風美夏の不安を取り去るだけの言葉を与えるのは簡単だろう。
しかし黎人は、風美夏の成長につながる様に、自分の意見を聞かせる事にした。
「風美夏、正論が正義や正解だとは限らないんだ。ましてや、正論なんてものは、人を納得させるだけの耳触りのいい言葉でしかない。正義や正解なんてものは、時と場合、場所や人によって変わってしまう物だからだ」
例えば、泥棒はいけない。これは間違いなく正論だ。
ただし、とても貧しい国で、空腹で、餓死の危機にあって、明日を生きられるかも分からない人達にとっては、泥棒で手にした食糧で生きながらえることができるなら、その人達にとってはそれが正解であり、生き延びる事が正義になりえる。
間違っていると分かっていても、その人達が生きる為には泥棒が正義の行動なのだ。
今回の場合、事件を未然に防ぐ方法は色々と存在するし、後から言える正論などは、山ほどある。
しかし、何故正論と同じ行動を選ばなかったかと言えば、自分にとっての正義を選んだからだろう。
風美夏は、自分にとっての正解だと思う物を選んできた。
冒険者になったのも、マネージャーになったのも、騒ぎを隠蔽したのでさえ、その時、何を守りたいかによって正解、正義は変わる。
ただ、正解と言うのは他人にとっては不正解である場合もある。
生きる為に泥棒をして生きながらえた人達にとって泥棒が正解だとしたら、泥棒にあった店側にとっては泥棒は不正解で悪だ。
これは決して交わる事はない。
正論を振りかざす人と、感情論で擁護する人に分かれて、決着がつく事はない。
しかし、一度自分にとっての正義を振りかざしたなら、相手の正義に負けない様に、正論を自分の正義で塗りつぶさなくてはいけない。
今回、逮捕された生徒達が、踏みとどまるにはどうしたらよかったのか?
問題が起こったらすぐに問題を公にすればよかった。
これは一つの正論だろう。
しかし、この正論には、かもしれないと言う曖昧な条件が付け加えられる。
それに引き換えになるのは巻き込まれた剣道部達である。
これは、学校と言う特殊な条件で起こり得る事である。
連帯責任と言う訳のわからない罰である。
それを風美夏は良しとしなかった。
では、今回風美夏や、星空が選んだ正義はなにか?
それは、剣道部の、
ここで、逮捕された生徒達が、反省していれば何事も無かった。
逆恨みで犯罪行動を起こす事まで予測しろと言う方が酷な事である。
「風美夏が他人の罪まで背負う必要はない。だけど、過去の選択は自分が選んだ物だ。その選択が今もまだ正義だと思うなら、貫き通せ」
今回の件で、捕まった生徒に元剣道部がいる事で、何か言ってくる部外者がいるかもしれない。
しかし、風美夏が選んだのは剣道部を支えるマネージャーとして、剣道部の仲間と上を目指す道である。
自分の信じる道。
黎人の言葉に、胸につっかえていた何かが取れた風美夏は、明日からの部活の為に気合いを入れるのであった。
「部外者から何か言ってくるなんてあり得ないでしょ?」
「さあな」
正論は、権力や情報操作で塗りつぶす事も可能である。
大人の汚い部分を、先に帰った子供達が知る必要はない。
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