第201話 大手

ある日、新潟の冒険者ギルド近くの雑居ビルに大きな看板がかけられた。


《タソガレエージェンシー(仮)》


《椿アドベンチャラー》《クジラワークス》と並ぶ冒険者マネジメント会社の大手である。


大手の中で、1番成長している会社であり、社長の板野奈緒美も有名であった。


フリーランス冒険者でメディアでも人気の柊木火蓮が、タソガレエージェンシーの前進である奈緒美の私塾に所属していた事も、この会社が人気である一つの要因だろう。


そして、そのタソガレエージェンシーの中でも特に有名な冒険者が《齋藤昴さいとうすばる》と《富永とみながあさぎ》だ。


柊木火蓮が今のバディである亜桜紫音とコンビを組む前の奈緒美の私塾にいる時にパーティを組んでいた2人であった。


今はタソガレエージェンシーのトップ冒険者であり、メディアへの露出も多い2人だが、この度、新潟の店舗へ支社長、副支社長として来る事がサプライズ発表されたのである。


指導者として、東京や名古屋、大阪のタソガレエージェンシー所属の冒険者を引き連れての新潟出店、そしてサプライズだから店舗としては雑居ビルだが、後々はしっかりした建物を建てて、本格的に新潟の冒険者事業の盛り上げを約束した。



これは、新潟県としては嬉しい出来事であった。


今まで、小規模な冒険者事業の存在はあった物の、冒険者を目指す県民はやはり都会へ出て行く傾向にあった。


しかし、新潟の冒険者事業が栄えれば、新潟の周りの県から、冒険者を目指して引っ越して来る事はおおいに考えられる。


県が活性化し、豊かになるのは簡単に想像できる事であろう。


ただし、それを快く思わない人達も勿論いる。


その中でも、現在新潟にある冒険者マネジメント会社の《アドベントアドバイザーズ》の社長である古谷はその筆頭であろう。


しかし、古谷はタソガレエージェンシーの冒険者募集要項を見て鼻で笑っていた。


タソガレエージェンシーの給料はアドベントアドバイザーズの給料よりも低かったのである。


基本、冒険者マネジメント会社に所属する冒険者の給料は出来高制で、魔石の納品額から何%かが会社に取られる仕組みだ。


アドベントアドバイザーズが20%に対してタソガレエージェンシーは30%も取ると書いてある。


武具の貸し出しや、指導冒険者による適切な指導。それに怪我をした時などの補償の為だと言っているが、そんな物は古谷のアドベントアドバイザーズもやっている事だ。


大手だからと言って、東京の感覚で参入して来て、肝を冷やされたが、共存、いや、タソガレエージェンシーを広告に、他県から新潟に来た冒険者が給料面を見てアドベントアドバイザーズに入社してこちらを稼がせてくれる事が考えられると、笑いが止まらなかった。


それに、新潟が盛り上がれば、百貨店の方も盛り返すであろう。


今は、客足が減ったせいもあって空き店舗ばかりだが、新潟が盛り上がればそこに目をつけて出店を申し込んで来る店舗も増えるであろう。


店舗さえ増えれば、出店料を搾り取る事ができ、立地のいい場所への移転は叶わなかったが、今の場所でのリニューアルはできるであろう。


店舗拡大するなら安保から上手い事1300万を奪っても頭金にすらならないな。


古谷は大きな夢を頭の中に膨らませてニヤニヤと笑うのだった。

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