第200話 これからの事

紗夜の弁当屋の本日の営業が終了して、風美夏も学校から帰ってきた。


紗夜が用意してくれたお弁当を食べて、いつもならダンジョンに向かう所である。


しかし、今日は、黎人からの話があると言ってシャッターを閉めた店内の椅子に座って話をしていた。


そこで、黎人が取り出したのは、紗夜の借金の借用書であった。


「春風さん、これをどうして?」


紗夜が内容を確認すると、驚いて質問した。

黎人はなんでもないと言った様に答える。


「大きなお世話だと言うかもしれないが、この店の借金は俺が建て替えておいた。調べてみたら最近の嫌がらせはこれの関連だったみたいだからね、放っておいてエスカレートすれば店を潰されるかもしれないからね。なに、師匠からの昇級祝いみたいな物だと思っておくといい」


紗夜と風美夏は、この度冒険者免許を取得してFランクへと昇級した。


「でも、流石にこれは……」


「師匠、やり過ぎ……」


2人とも、借金の額が分かっているだけに若干引き気味である。


「しかし、これで借金も無くなった訳だが、どうする? 冒険者を辞めて弁当屋の専業に戻っても良いんだぞ?」


黎人はそう提案した。


2人が冒険者になったのは、家の借金の分を魔石を稼いで補う為であった。


借金が無くなった今、冒険者である必要はなくなった訳だ。


「私は、これからも冒険者とのダブルワークをしたいと思います。冒険者をして、お弁当のクオリティも上がって皆さんに喜んでもらえますし、冒険者で上を目指すのは自分にとってもいい事だと思います。それに、このお金は、いつか必ず春風さんにお返ししますから」


「別にいいのに」


はぐらかそうとする黎人に紗夜は首を振った。


「このお店は、私が守るあの人と私の大切な場所ですから」


「なら、その大切な場所を無くさないためにも、もう無茶はしない事だ」


「はい」


紗夜の大切にしている気持ちのために、黎人は返済を了承した。


「私も、冒険者を続ける!」


ビシッと手を上げて、風美夏もそう言った。


「師匠を見本に頑張ってると、部活のマネージャーにも活かせる事がいっぱいあるし、将来何したいかが決まった時の為にも、冒険者を続けた方がいいと思う」


2人が出した答えを聞いて、黎人は2人の指導を続ける事にした。


話も終わって、今日からは冒険者免許を所持している事で入れるFクラスダンジョンでの指導となる。


人型の魔物との戦闘指導である。


今までの動物型の魔物とは勝手が違うし、紗夜の捌く知識も活かすことはできない。


風美夏は、剣道の試合などで人との戦いの雰囲気は分かるかもしれないが、スポーツとは違った事も多い。


新しいダンジョンに、気合い十分な2人を連れて、黎人はダンジョンに向かうのであった。

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