第199話 妬み
風美夏の事を僻んで、剣道部で問題を起こしたグループに、剣道部を退部した三年生も合流して文句を言い合っていた。
「先輩達もバカですね、どうせなら部活に籍を置いたまま問題を起こせば剣道部を潰せたのに」
そう話したのは、グループの中で参謀の様に一歩引いた立ち位置にいる少女であった。
一歩引いた立ち位置とは言っているが、三年生や、リーダー格の少女を上手い事持ち上げているだけで、今回の騒動を考えたのは、この少女だったりする。
「また何か考えないと、このままでは終われないでしょ?」
少女は負けたまま終われないよね? と先輩達や仲間を煽った。
「とりあえず、今日も憂さ晴らしに狩でも行きましょうよ」
この少女は冒険者である。
しかし、今少女が言っている狩とは、魔物を狩って小遣いを稼ごうと言う意味では無い。
少女は、冒険者に憧れていた。
高校に上がってすぐに、地元にある冒険者マネジメント会社にアルバイトに入って下積みを始めて、将来は上級冒険者になろうと志していた。
しかし、理想と現実は違った。
ネットで調べて、冒険者マネジメント会社で下積みをするのが強くなる為の近道だと書いてあったのに、それは間違いだった。
いや、自分が理想を描きすぎたのかもしれない。
みんなが憧れるトップ層の冒険者は、ただの成功者で、自分達の様な駆け出しは搾取されるだけの労働者だと言う事を思い知った。
夢を持って始めたバイトも、挫折して辞めていく同期や先輩達を見て、自分も上手く行くわけがないと、心の何処かでずっと思っていた。
ノルマが達成できず、バイト代は上手く稼げないので、友達と遊びに行く事もあまりできなくなっていた。
好きで始めたはずだったのに、給料の少ない冒険者と言う仕事を恨んだ。
そんな時、冒険者を辞めた先輩から声がかかった。
「冒険者なんか辞めて、もっと割りのいい仕事しないか?」
先輩は、ある事をして金を稼いで、自分の店を出すまでになっていた。
お金に釣られて、少女は先輩の話を聞いた。
先輩について、仕事を習った時、衝撃を受けた。
「先輩、これって……」
「バレなきゃいいんだよ。コイツらも、自分が悪いことしてんのにチクるわけないから安全安全!」
犯罪だった。
先輩が経営する店で目をつけた客に店外で声をかけて、パパ活を誘う。
そして、鼻の下を伸ばしてついて来たおっさん達を冒険者で伸ばしたステータスで脅して金を奪うのだ。
ホテルに入ってしまえば、カメラの目は届かないから、怪我さえ負わせなければどうとでもなる。
高校生をホテルに連れ込んだ負目から、おっさん達は金を取られても口をつぐむから、バレる事はない。
狩りを始めてから金回りが良くなり、冒険者も辞めた。
冒険者を続けるよりも、ちょろっとステータスを上げて上手いことした方が賢い。
仲の良かった友達も巻き込んで、金がなくなったりムシャクシャした時には狩りをして気を晴らした。
そんな時、一つの噂を聞いた。
柏木風美夏が家の為に冒険者を始めたらしい。
少女は鼻で笑った。失敗が目に見えていたからだ。
先生に気に入られている真面目ちゃんだったから、失敗する様を見て笑ってやろうと思った。
しかし、その予想は外れて、家の弁当屋は活気を徐々に取り戻して、部活も、マネージャーになったものの楽しく活動し、更には、冒険者としても上手くやっているみたいであった。
順風満帆な風美夏を見て、イライラした。
そんな時、友達が仲良くしている先輩が愚痴を言っているのを聞いて、仲間に引き込んで部活を潰してやろうと思った。
しかし、上手く行きかけた所で邪魔が入って失敗してしまった。
そして、その失敗の時に、自分よりも風美夏の方が冒険者として強くなっているのを理解してしまい、イライラは増すばかりである。
しかし、狩りの為に雑用をして聞き耳を立てていた時に、運命の出会いをした。
あの店の借金の貸主が、愚痴を吐いていたのだ。
コイツを使って、弱みを聞き出して、何かできるかもしれない。
少女は怪しい笑みを浮かべて、仲間を引き連れると、退店したおじさんに声をかけるのであった。
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