第198話 小物
丸岡は、黎人が去った後、安保と2人で道に投げられた金を拾って分けた。
そして、安保に色々と説明をして小切手を預かり、慌てて報告へ向かった。
「おい、何しに戻ってきやがった?」
男は1時間ほど前に出ていった丸岡が帰ってきたのでそう聞いた。
受付から再度アポの連絡が来た時には追い返そうかと思ったが、やる事も無かったので気まぐれに通したのであった。
「大変なんです古谷さん」
男、アドベントアドバイザーズ社長古谷は、丸岡が差し出してきた一枚の紙を見て目を剥いて驚いた。
1300万の小切手である。
「お、お前これどうした?」
「大変なんです、この名前の所を見てください!」
「おい! これは……」
古谷も、黎人の肩書きにたどり着いたようで、声は明らかに狼狽えていた。
「あの弁当屋の後ろにはとんでも無いのがついてますよ、手を引いた方がいいんじゃないですか?」
丸岡は所詮新潟でそれなりの権力を持っていた百貨店社長の使いっ走りのチンピラ。
今まで、古谷の威を借りていたから色々とやって来たが、それよりもデカい存在に、恐れをなしてしまった。
「ああ、これは手を引くしか無いだろうな」
古谷もまた、傾けたとは言え百貨店の社長をしている男だ。
社員や店舗など、自分の立場が上なら搾り取るが、物産展などに参加してもらう取引先に頭を下げてきたのだ。
傾いた百貨店は置いておいて、冒険者ギルドが自身の経営するもう一つの事業、冒険者マネジメント会社にとって逆らえない取引先だと言う事は理解している。
自分の自尊心の為に、今成功している事業を潰してしまう程の馬鹿ではなかった。
「この金で引き下がるのが妥当だろうな。わざわざ危ない薮に手を突っ込みたくは無い」
「だけど、これは安保の金ですよ?」
「なに?」
古谷と丸岡は、自分より強い者には弱いが、自分より弱い者にはめっぽう強くでる。
2人はこの金を、どうやって安保から奪うかを相談するのであった。
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丸岡と別れた安保は、態度を変えた丸岡に腹を立てて酒を飲んでいた。
手に入れた金をパアッと使い、ガールズバーで働く少女に愚痴をクドクドと話した。
一軒目を出て、2軒目に行こうか迷いながら歩いていると、安保は声をかけられた。
先程黎人に声をかけてイライラとした思いがぶり返し、酒の力も借りて「何かようか!」と大声で振り返った。
振り向いた先には、制服を着た女子高校生が数人立っており、女性慣れしていない安保はたじろいだ。
「おっさん、さっき愚痴ってた内容詳しく聞かせろよ、悪い様にはしないからさ」
安保は、酔っていた事もあり、鼻の下を伸ばして頷いたのであった。
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