86話苦悩

ああ、体に当たる雨が冷たく心まで冷やしていく。


私は今まで父から冒険者は底辺の仕事で使い潰す為にあると教えられて育ってきた。

実際、ニュースに取り上げられる冒険者も犯罪者が多かったし、そう言う物だと思っていた。


しかし、同世代の中に冒険者になった人物が現れた。

その人物は父に連れられて行ったパーティで見本にしなさいと言われた様な人物だったし、何故冒険者などになったのか信じられなかった。


正しい道に戻さなければ。

私はそう思って彼女に話しかけた。

その時の話はある人物によって邪魔をされてしまったのだが、彼女は私の話に対して違った意見を持っている様だった。


それが気になって、私は自分なりに調べてみたのだけれど、今までと違った情報は得られなかった。


だから、町で偶然見かけた彼女の相棒に声をかけて、彼女が見ている冒険者像を聞いてみた。


そうしたら、日本で一般的に出回っている情報とはまるで違っていた。

その話を聞けば、確かに自分の成長の為になると言える。

しかし、その話をただ鵜呑みにはできない。


なので、話のヒントとして日本ではなく海外に目を向けてみた。

今まで見ていた日本語のサイト以外の翻訳されていない海外の記事を回覧して行った。


そうすれば、日本の冒険者に対してのイメージがだいぶ歪められた物だと感じた。

いや、歪められたが故にこうなったかの様な…


私は自分の成長の為に父にダンジョンへ行く許可をもらいに行った。

自分がそうするに至った情報も話して説得しようとした。


しかし、父の反応はいいものでは無かった。


「日本を乗っ取ろうとする化け物どもの仲間になろうとするとは何事か!」


それが父の反応だった。

父は冒険者が魔石を吸収して力だけで無くその他も成長する事は理解していた様だ。


しかし、そうなった冒険者はもはや人間では無く化け物で、化け物によって世界は支配されようとしているとまで考えていた。


私はそうでは無く、人間の成長、進化なのではないかと説得しようとしたが、父は、自分の思い通りにならない子供はいらないと言って私を家から放り出した。

家を出る時に私の代わりに家を継ぐ事になった妹が何か言っていた様だけど私はそれどころでは無かったので何を言っていたのか覚えていない。


私はどうしようもない現状に傘もささずに雨の中を行く当てもなく歩いた。

溢れ出る涙を冷たい雨はかくしてくれる。


雨が涙を隠してくれても、私の現状は何が変わるわけでも無く、道ゆく人々は私を避けて歩いてゆく。


そんな時、急に雨が止んだ。

私の涙は隠れる事なく、滝の様に頬を流れた。


「あなた、そんな所で泣いていたら風邪をひいてしまうわよ?」


雨は止んだのではなく、誰かが傘をさしてくれただけだった。


「泣いていても分からないわ。悩み事なら聞いてあげる。ちょうど用事がなくなって観光するのも飽きてきたところなのよ。

私の名前は菊池玲子。あなたの名前は?」


この後、風邪を引くからと旅館でお風呂と着替えまで借りてしまった。

大浴場に入りながら、私は玲子さんにこれまでの事と家を追い出されどうしていいか分からないと言った悩みを打ち明けるのだが、その時の私は、これが私の運命を変える出会いだと思ってもいなかった。



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