84話個人の成長

今日は楓1人でダンジョンへと来ていた。

単位の関係で翠は大学、楓は休みなのだが、楓は無茶をしない事を黎人に約束して1人でやって来たのだ。


いつもは翠と2人で連携して倒している魔物も、1人で戦えばそれなりに苦戦をしいられる。

なぜこうして1人で来たのかと言えば自分で決めた目標の為であった。


思い人。翠を守れる人になりたい。


しかし黎人に師事する以前の魔石の吸収は翠の方が多く、その差なのかは分からないが、楓は翠に先をいかれている感じがしてならなかった。

それに、翠とバディを組む以前の黎人の指導では、決定打に欠ける戦い方として戦い方を修正されていた。


もしかしたら、自分がフォローするのでは無く、表に立ち戦う時があるかも知れない。

その時の事を考えて、こうして1人でダンジョンへとやって来て黎人に以前言われた事を思い出しながら魔物と戦っているのである。


とは言え、以前よりもスモールシールドがある分前傾姿勢な戦い方ができているのだが。


今も、突っ込んできた鹿の魔物の角を剣では無く盾で受け止め、突っ込んできた勢いを利用して盾を滑らせる様にして体を移動させて攻撃を躱して背後から鹿の魔物を斬りつけて攻撃した。


黎人いわく、楓は特別な才能はないが愚直な反復練習を繰り返して物にして行くタイプだ。

その愚直さを極めればそれが正に才能になる。

大器晩成型だそうだ。


だから確実に、一つ一つの行動を確認する様に魔物を次から次へと相手にしていった。


集中していれば時間が過ぎるのはあっという間で、気づけば昼をだいぶ回っていた。

ダンジョンを出て受付へと向かい、今日の成果報告をする。

税金の分の魔石を納めて、残りを吸収してステータスの足しにする。

こうして1人の時は税の分魔石を納めるのだが、指導してもらっている時は黎人が成長の為にと代わりに現金を払ってくれている。

とてもありがたい事だと思う。インナースーツにしろ、この事にしろ、将来自分が冒険者をメインの仕事にしなくても何かの形で恩返ししなければいけないと思う。


考え事をしているうちに魔石の吸収を終えた。

やはり指導をしてもらって成長しているのか、前回1人で来た時よりも多い魔石を吸収し終えると、シャワーと着替えを済ませてダンジョンを出る。


するとそこで、楓は予想もしていなかった人物から声をかけられるのだった。


「この前は申し訳なかったわね。良かったら聞きたい事があるのだけれど、時間を頂けないかしら?」


声をかけて来たのはなんと日野万里鈴だった。


楓はお昼を食べに行く所だったのでそこで良ければと一緒に定食屋に入った。


「すいませんね、こんな所で」


「そんな事ありませんわ。私もたまに来ます。

見栄を張る時以外は、意外と質素なんですよ」


そう言って万里鈴はクスリと笑った。

なんでも家の名前を出す時以外はコンビニでも定食屋でもハンバーガーチェーン店でもなんでも行くのだそうだ。

ただ家の名前に傷を付けてはいけない。

それだけは小さい頃から言われて来たのだそう。

だから世間一般的に底辺と言われる冒険者に翠がなったのを注意しに来たのだそうだ。

翠と話をしに行くと知った五行がついて来たらしいが、ほぼほぼ話を取られてしまい、ましてや関係のない楓を巻き込んでしまい申し訳なかったと改めて謝罪をしてくれた。


「五行は過去の歴史をごっちゃにしているところがあるのであんな失礼な事を不躾にも。

土方の事を逆賊と話すのなら日野も同じ様に言ったのと同じなのにね。

と、こんな話をしに来たのではないわ。

貴方に聞きたい事があって来たのよ」


そう言って万里鈴は居住まいを正した。


「私の周りでは一般的な冒険者の風評しかわからなかったの。だから椿さんが言っていた事を教えてくれないかしら」


「お待たせしました。親子丼とうどんのセットのお客様ー」


タイミングが悪い事に万里鈴が頭を下げたタイミングで食事が届いてしまった。


「クリームぜんざいのお客様ー。はい、ごゆっくり」


テーブルに置かれた食事を見て少し顔を赤くしてコホンと咳払いをすると「で、教えてもらえるかしら?」と話を続けた。


楓は食事をしながら黎人に聞いた話を万里鈴に聞かせた。魔石での成長や日本と海外での認識の違いなどの話を。

話を聞いた万里鈴はクリームぜんざいを口に運びながら考えているようだった。


食事を終えて店を出ると万里鈴はお礼を言って帰って行った。


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土御門五行は使用人づてに呼び出した冒険者に向かって話をしていた。

冒険者を下賤と見下していても自分の力で楓に勝てない事は理解している為、人を雇ってなんとかしようと色々とした準備をしていた。


呼び出したのは使用人の知り合いのFランク冒険者であった。


「それで、なるだけ強い冒険者を紹介してもらいたい。もちろん紹介料は払うぞ?少し懲らしめたい冒険者がいるのでな」


紹介料をたんまりと貰えると使用人ともだちに聞いている為、ごますりしそうなほどの笑顔を浮かべた冒険者の男は上機嫌で話し始める。


「これは内緒の話なので大っぴらにはしないで欲しいのですが、自分が通っている夕暮れ塾の講師がとんでもない冒険者なのです。

騒ぎになる為に隠している事実なのですが、なんと最強の冒険者ゼロなのです」


興奮気味に話す冒険者だが、最強の冒険者と言っても冒険者を見下している五行には同じだと感じる。

しかし、最強と言うからには自分を馬鹿にした楓に痛い目に合わせ、冒険者に憧れる翠の興味を引くには丁度いい人物だと思いニヤリと笑顔を作る。


その後、呼び出した冒険者に金を握らせ、その講師を紹介してもらう事を約束したのだった。







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