81話強敵への挑戦
夕暮れ塾の初講義があった日から1週間。
本日は2回目の開催日である。
今日はダンジョンへと潜る為に受講生を3組に分けて探索する事になる。
講師は持ち回りでローテーションするみたいだが、今回狭間達は運のいい事に服部についてもらう事が決まっている。
ダンジョンに潜る前に、また会議室で今日の目標など座学を挟んでからダンジョンに潜る為、集合は以前と同じ様に会議室である。
時間と共に講義が始まり、今日から始まるダンジョン探索についでの説明がある。
「それでは、私なりの新人冒険者の育て方について、自論を交えて説明させて頂く。
まず、前回も言ったが、冒険者というのは死線を超えて強くなっていく。
なので、諸君らにはなるだけ安全に死線をくぐりぬけてもらいたい。
まず、君達のレベルに応じたチーム編成を行い、いつもより強い魔物のいるエリアで戦闘を行ってもらう。
勿論怪我もするだろうが、冒険者とはそうやって強くなっていくものだ。
勿論、君達が死なない様にピンチになれば私達が助けに入ろう。安心して欲しい。私達にかかればその程度の魔物は一撃だ。君達に危険は無い」
怪我をするかもしれない。その言葉と共に、服部の首の傷跡に目がいってしまい、何人かはごくりと喉を鳴らした。
「そして、今日から君達の魔石の吸収をしばらく禁止する。これは強い魔物に挑戦する為に取る安全策だ。魔石を吸収すればステータスが上がって腕力は上がるかもしれないが、死線をくぐるための魔物も強くする必要がある。なので君達の戦闘技能が上がるまでは魔石の吸収を禁止して、現状の能力のまま、一歩進んだ魔物を相手にしてもらいたい。今の能力のまま、今は苦戦するであろう魔物を倒せる様になれば魔石を吸収した時に通常よりも大きな成長が見込めるというものだ」
そうして服部からの講義は終わり、各々パーティに分かれてダンジョンへと向かう。
狭間のパーティは人数が2人と少なかった為に他の溢れていた2人を加えて5人チームとなった。
「それではこれからゲートへ入る。そこから君達の実力なら1階の3エリアが良いだろうか。そこまで進んでギリギリの死闘を繰り返す。ピンチになったら助けに入るので存分に戦いたまえ」
服部の号令でダンジョンへと潜る。
今まで来たことのないエリアまで移動して現れた魔物と戦闘に入る。
相手はオーク。二足歩行の豚の魔物だが、ゲート付近にも出てくる魔物であるし、今までこの魔物で小遣いを稼いできた。
そう言った奢りがあっただろうか。
このエリアのオークはゲート前とは違い3から4のパーティを組んで襲ってくる。
しかも多少ではあるがステータスが高い。
そしてパーティに1人は武器を持っている。
大概は錆びた剣だがたまに槍を持ったオークが混ざる。
そんな魔物にいつもと同じ様に戦った物だからオークに手痛い反撃をくらった。
慣れていない2人との連携は上手くいかないどころか、突っ込みすぎる狭間をフォローしていた楓はおらず、1人だけ孤立してしまう。
それにギョッとした新メンバーの2人がフォローに回ろうとするが、それまでに狭間は2体のオークに囲まれ、防戦一方になるどころか、徐々に押されて傷が増えていく。
それを尻目に、いや、気づくことなく志歩と和馬は何とか1体のオークからの攻撃を捌きながら何とか善戦していた。
狭間が致命的なミスをする前に何とか新メンバー2人が間に合い2体のオークを押し返す事に成功する。
戦闘は戦略的ではなく、2組に分かれてしまい、散々な戦いの後、倒しきれずに結果的に服部に助けられて事なきを得た。
「初めからそうそう上手くいくものではない。これを続けて行くことで強くなっていくのだ」
服部の言葉に狭間は何とか頷いた。
ダンジョン探索が終わり、今日は解散となった。
狭間達は満身創痍で帰路に着く。
狭間はオークの攻撃で左手に怪我を負い、ギルドの治療室にて治療をしてもらったが左手は包帯が巻かれて痛々しい。
志歩は疲れと細かい傷を受けたのでこれからの探索に参加したく無いと文句を言っているのを和馬が宥めている。
普段と違い今日は魔石も手に入れてないので利益はゼロ。
服部が倒したオークの魔石は服部が持っていったからだ。
次の夕暮れ塾は来週。それまでに狭間は左腕を治さないといけない。
普段からそれまでにいつもと同じ様にダンジョンに潜り小遣いを稼ぐのだが、先ずは治療に専念しなければならない。
一旦の稼ぎは減るが、まだ第一歩。
これから続けていけば今の倍どころか何十倍と稼いで、翠を落とす為のプレゼントも買える様になると思って、狭間は気持ちを奮い立たせた。
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受講者が帰った後の服部達は今日の成果を自宅で話していた。
「しかし、こんなに上手くいくなんてちょろいもんすね」
そう発言したのは丹羽だった。
「私達は何も嘘なんて言ってないもの。
茨城第2のDランクダンジョン最前線で冒険者をやっていた私達が新人のFランクに講義してあげる為の塾でしょ。
それにしても空はよくそんなかしこまった話し方ができるわよね」
「俺は冒険者だけじゃ無くて普通に働いた経験もあるからな」
白鷺の言葉に服部はそう返事をしてグラスに注いだ焼酎を一気に飲み干した。
「それでも後輩の育て方は人それぞれとは言え、魔石の吸収を禁じたのは何でっすか?
吸収させた方がちゃんと育つでしょう?」
「バカね。魔石を吸収されて知力つけて文句を言うようになっても困るでしょ?」
「あ、なるほど」
「しかし週2回でこれだけの稼ぎは笑いが出るな」
「もっと受講者を増やせばさらに儲かるわよ。今日の感じだと1人4パーティくらい見ても欠伸が出るもの」
「まあFランクダンジョンの一階だしな」
「危険なダンジョンに潜るよりも稼げるし、こうやって頭使わないとね。
Dランクに潜ってあんだけ危険な思いしても知れた金額なんだから」
「でもよくこんな事思いついたっすよね。昔ならあり得なかったっす」
「そんなの魔石を吸収して悪知恵がついたからに決まってるでしょ。真面目にやるなんてアホのする事よ。
でも、もっと褒めて良いわよ。私に感謝しなさい」
この計画は白鷺の発案だった。
まず、冒険者になりたての人物に狙いをつけ、世間話を持ちかける。
「東京で有名冒険者の引退が話題になってますね」と言って。
そこに反応した冒険者にのみ「所で、最前線を引退した冒険者が私塾を開こうとしてるんですけど興味ない?」と言って誘う。
頭の軽い奴ほど前の話題を引きずって「まさか」と言って聞いてきた。
それは騒ぎになるから内緒だと言って言葉を濁せば騙される奴は簡単に騙される。
思い込みというのは怖い。
服部達は一度もゼロがするなど言っていないのに、受講者の間で盛り上がる。
勘違いした人間だけを集めたのだから当たり前なのだろうけど。
それに、受講料を常識の範囲内で高くしたのも勘違いの要因の一つだろう。こんなに高いのだからゼロがするに違いない。なんて思ってそうだ。
男を狙ったのも大きい。
昔から虎の被り物だとか正体の分からない強者に男は憧れるのだから単純で助かる。
ともあれ、夕暮れ塾の成功を祝って、酒盛りは朝方まで続いた。
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