82話新装備

楓と翠は黎人に連れられて武器屋に来ていた。

初心者武器取扱店始まりの町

初心者武器にしては少しお高いが、その代わりに耐久性がものすごく高く、メンテナンスさえ怠らなければ長く使える武器を取り揃えている。


今回ここに来たのは2人の戦い方に合わせて武器を新調する為だ。

今は2人とも初心者用の廉価版武器の中で1番スタンダードな片手直剣ソードを使っている。

スタンダードであるが故にこのままでも問題ないのだが、2人は役割を分けて戦闘を行なっている為、連携をとりやすい様に武器を新調しようと黎人が提案したのだ。


と言っても楓は片手直剣はそのままなのだが、新しくスモールシールドを装備する。


翠は振り抜く様な動作の出る片手直剣よりも動きが早く、次の動作に移りやすい細剣レイピアを使う事となる。


何故 《Orichalcum》では無く《始まりの町》に来たのかと言うと、安全はどれだけ確保しても足りないくらいだが、攻撃力の優れた武器は逆に成長を阻害する。と言った黎人の指導方針の為である。


今回2人に選ぶ武器も耐久性は群を抜いて高い物の、攻撃力は今までの物とそう変わらない物である。


買う物は決まっている為、それを買うだけでもいいのだが、2人は以前の武器はギルドのレンタル落ちを買った為、この様に多種多様な武器が並ぶ光景を見るのは初めてである。

その為、目を輝かせてきょろきょろと周りの武器に目移りしてしまっている。


冒険者と言えど、武器を武器と解る状態で持ち歩くのは銃刀法の関係上無理な為に、専用のケースに入れて持ち歩かなければいけない。


黎人は、会計を済ませ、ケースに入れて貰うまでの間、2人に店の中を自由に見て回ってもいいと許しを出す。

2人は喜んで店の中の色々な武器を見て回り始めた。



「土方くん、刀もあるよ」


「わあ、ほんとだ。色んな長さがあるんだね。模様も違う。かっこいいな」


「やっぱり男の子って刀好きだよね」


そう言って笑う翠の横顔を見て、楓は思ってしまった。

まるで、デートみたいではないかと。

一度そう考えてしまえば胸の鼓動は早くなり、見ている武器の説明も頭に入って来なくなる


「色んな武器があるね。ほら、こんなに大きい斧まで。こんなの初心者で使える人いるのかな?

ねえ、土方くん、聞いてる?」


「う、うん、聞いてるよ!迫力があるから見入っちゃって」


ドギマギと返した言葉に、翠は玩具を前にした子供の様だと笑っているが、楓は武器を見るよりも、他の考えでいっぱいいっぱいである。


2人が武器を見ているのを見て、店員が話しかけてきた。


「いらっしゃいませ。気になる武器はございましたか?」


「あ、武器はもう購入して師匠がお会計をしてくれてまして。その間店を見てきていいと言われたので見て回ってるんですよ」


「そうでしたか。お師匠様がいらっしゃるなら問題ありませんね。新人の方は見た目だけで武器を選んで失敗される方もいらっしゃいますから」


店員は楓の答えにそう言ってニコリと微笑んだ。

これまで色々な武器や防具を見て回ったが、翠はある物が見当たらないのを疑問に思った。

それは先日実家に戻った時に、父に紹介された冒険者がインナースーツの事をわざわざ話題に出したのを思い出したからだ。


「すいません、色々見て回ったのですが、インナースーツが見当たらないのですが置いてないのでしょうか?」


翠の質問に、店員は驚いた様に目を開いた後、ニコリと笑顔を浮かべて話し出した。


「申し訳ありません。インナースーツは《Orichalcum》と言う高級店専用の取り扱いですので当店には置いてないのですよ。

しかし、憧れますよね。私はこれでも冒険者をしていた事がありまして、怪我が原因で引退したのですが私の様に引退する冒険者を減らしたくてこの仕事をしているのです。

いや、自分語りが過ぎましたな。申し訳ない」


「そんな事は。高級品なんですね…」


「はい。インナースーツは防御力、動きやすさ、全てにおいて理想の防具ですからね。

上級冒険者になるほど憧れるんじゃないですかね。Sランクなら皆さん使っているでしょうが、なんせ価格が価格ですからねAランクでも限られた人しか持ってないんじゃないのかな。

でも、それを目標に頑張る事はいい事ですよ。頑張ってください」


「…いったいおいくらなんでしょうか?」


「ふふふ。モデルが3種類ありまして、1番下のモデルで5000万、その上が6000万、最上位モデルが7000万だったはずです。

あ、過去に特別モデルでSSSランクの魔物の素材を使った物が1着だけ作られたと聞いたことがありますが、それが本当なら値段はつけられ無いでしょうね」


店員も憧れがあるのかそう目を輝かせて語ってくれる。

しかし、そのインナースーツをポンと渡された2人は驚きで固まるしかなかった。


そこへ、黎人がお会計を済ませてやってきた。

その姿を見た店員はニコリとして話を終わらせる。


「どうやらお師匠様がお迎えに来られた様ですね。

あの方は貴方達の為に真剣に武器を選んでらっしゃいました。

きっと、いいお師匠様なのでしょう。安心してついて行ってください」


そう言って店員は話を締め括った。


黎人と合流して、3人は店をでる。

楓と翠の手には大事そうに武具の入ったケースが握られている。

一般人に見られても違和感がない様に、翠のものはフルートのケース、楓の物はチェロのケースの様だ。

この後、インナースーツの事について質問された黎人が、2人が防御を無視する様な事にならない様に一から教育方針について話すのだが、金銭感覚がずれていて2人楓と翠が聞きたい事は伝わらなかった。とだけ話しておこう。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る