74話昼食

お昼になってスマホを見る。

これも話しかけてほしくないアピールなのだが、その事に気づかないも居るので今日は特に気分が滅入る。

メッセージアプリを開くと、私が朝に送ったメッセージは既読になっているのに返信は無い。

やはり、狭間の話を聞く限り返信しづらいのだろうなと思い、話しかけてくるから離れたいのもあって、私は土方くんに電話をかける為に席を外した。


電話で、煮え切らない土方くんの態度に少しイラッとしてしまい、直接話す方が手っ取り早いと思い、これから一緒にお昼を食べる事になった。

誰かと一緒にいる様だけど、その人も大丈夫だと言っているみたいだ。

これって、私の勘違いで、土方くんは大学に来づらいんじゃ無くて、ただ友達とサボって遊んでるとかじゃ無いよね?今までそんなの見た事なかったし。

私はそんな事を考えながら待ち合わせの定食屋へと向かう。

荷物を取りに戻ると、空気を読めない男が付いてきそうなので、私はそのまま大学を出た。

財布は持っていないけど、スマホが有れば大体の所で支払いが出来るから大丈夫だよね。


定食屋に着くと、土方くんと少し年上の男性が中には入らずに待ってくれていた。

私は初対面のその男性に挨拶をして、3人でへと移動した。



________________________________________


椿さんと合流して春風さんのおすすめだと言うへと連れて行ってもらった。

何でも春風さんが宿泊している旅館の女将さんにおすすめしてもらった店だとか。


そこにたどり着いた時、僕の表情はさぞ引き攣っていた事だろう。

多分、椿さんも同じだと思う。

見るからに趣のある門構え。まず入口では無く門を潜って飛び石のある庭を抜けた先にある屋敷。


僕は、多分椿さんもこの走りを知っていた。

この辺りでは有名な高級料亭だ。

ランチもやっていると聞いた事はあるが、自分達に縁がある物だとは思っていなかった。

春風さんは笑顔で「今日は俺の奢りだから2人とも値段は気にする事ないぞ」と言って門を潜って行ってしまう。

僕は椿さんと顔を見合わせて、共に頷くと春風さんの後を追った。


席に通されると、そこは個室で、畳なのに、絨毯が敷かれ、テーブルが置かれている部屋だった。

調度品も何だか高そうな物ばかりで席に着くといつもより2割増しで背筋が伸びる。


メニューはすでに決まっている様で、1人増えた事に関しても春風さんはいつの間にか連絡していてくれたらしく、着物を着た店員さんが飲み物だけを聞いて部屋から出て行った。


沈黙が訪れた部屋で春風さんがクツクツと笑いながら話し始めた。


「そんなに畏まらなくても好きに話して大丈夫だぞ。誰にも咎められたりしないし周りに気を使うこともない。

君も、楓に話があったんだろう?」


「あ、はい。えっと、その前に春風さんって土方くんとはどう言った関係で…?」


「俺か?俺は楓の師匠だな。冒険者に関して何かを指導している」


「え?」


春風さんの話を聞いた椿さんは予想外と言った顔で僕の方を見た。


「一昨日から指導してもらってるんだ」


「土方くんは冒険者を続けるつもりなんですか?」


「え、うん…」


椿さんは諦めが悪いと呆れているのかもしれないな。

でも、春風さんの話を聞いて、僕なりに考えた結果、今までの様な邪な思いで冒険者をするのでは無くて、自分の為に冒険者になろうと決めたのだ。


「土方くんは狭間くんにパーティを追い出されて冒険者を辞めるのだと思ってました。

私も、辞めようと思っていますし」


「…え?」


「おかしいですか?ゼミの付き合いで冒険者になった様な物ですから。土方くんがパーティから抜けて前提が崩れた以上、冒険者を続ける意味がありません。

確かに普通のバイトよりも短時間でお金を稼げたので他の事に時間を使えましたが、あの人達は上を目指して冒険者に力を入れるみたいですし、時間を取られる位なら他のバイトを探そうと思ってます」


「そ、そうなんですか。狭間くんと付き合ってるんだから冒険者を続けるんだとばかり思ってました」


「またそれですか」


椿さんはあからさまに嫌そうな顔をした。


「狭間くんがそんな嘘を言いふらしていたらしいですね。ほんと、最悪です」


「違うんだ?」


「どちらかと言うと苦手な人ですよあの人は」


椿さんの言葉を聞いた瞬間、隣の席の春風さんにガシっと肩を掴まれた。


「良かったじゃ無いか。楓」


「何言ってるんですか、春風さん」


椿さんの目の前でそんな事を言ってしまう春風さんに僕の顔は熱くなり焦る。


「だから土方くんも無理せずに冒険者を辞めてもいいんじゃないんですか?1人で続ける意味もないでしょう?」


「…ううん、それは違うんだ。椿さん、冒険者を続ける意味はあるんだよ」


「続ける意味ですか?」


僕は椿さんの言葉に頷いてチラリと春風さんを見た。

すると春風さんは苦笑しながら話してくれた。


「俺が説明した方が分かりやすいかな。

でもその前に、料理が出来たみたいだから食べながら話そうか」


襖が開いて店員さんがお辞儀をして入って来る。

話を一旦区切って、テーブルの上には豪華な食事が並べられていった。

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