第33話 その後の2人
「ちくしょう!バカにしやがって!」
「そうよ!あの子、1ヶ月であんな生意気になるなんて!」
柊夫妻は冒険者ギルドを飛び出して道路を歩いていた。
「ちょっと前まではバカでちょっと上手いこと言ってやればほいほい言う事聞いてたのによ!」
「あの師匠とか言うヤツの入れ知恵でしょ。あの子にそんな事考えられる訳がないわ!」
「畜生!これからどうする?」
「…まあ借金取りから逃げる必要も無くなったしねぇ。そこは、ラッキーだったわよねぇ」
借金が無くなったと言う事実に、2人の怒りは薄れていき、歩くペースも落ち着いていく。
少し大きな声を出していたとしても、道ゆく人の中、2人の会話は都会の雑音にかき消され、周りに気にする人など居なかった。
「ん?借金が無くなったって事はよ、また金が借りられるって事じゃないか?」
「そう、そうよね!頭いいわ!さすがあなた!」
2人は次の行動を決めるとウキウキで歩き出した。
___数日後の夜、
「畜生!どこのどいつも金を貸しやがらねえ!」
そう叫んでビジネルホテルのゴミ箱を蹴っ飛ばした。
妻の
「やっぱりまともな所ってケチよね。
審査が、とか支払い能力が、とか以前。とか言い訳ばっかり!」
「でもよう、今日このホテル代で金も使いきっちまったぞ。これからどうする?」
遊里子は少し考えた後、ドライヤーを消して名案があるとばかりに話し出した。
「それなんだけど、また前みたいな所でお金借りたら良くない?」
「いや、でもよ、またあんな怖い思いするのは嫌だぜ?」
「そんなのまた火蓮に頼めばいいんじゃない?そしたら師匠様が払ってくれるでしょ」
「そうか。あいつに押し付ければいいのか」
庄吾は、それはいいと笑顔をつくる
「そうよ。結構高く借りても大丈夫みたいだし、海外旅行にでも行きましょうよ!」
「そりゃいいな!他人の金で豪遊だ!」
「それじゃあもう寝ましょ。夜更かしはお肌の敵だわ」
こうして柊夫妻の借りた部屋の明かりは消える。
しかし翌日、結局柊夫妻は金を借りられずにいた。
流石にどんな所でも本人の署名無しに連帯保証人にする事は出来なかった。
本人がいない為、以前のように学校の書類だからサインだけしなさいと言って書かせる事もできない。
「もう後出しでいいんじゃない?違法な金貸しなんだから娘売りますって言ったら上手い事してくれるでしょ。今回みたいに」
「そりゃそうか。実の娘なんだから俺らが了承すればできるよな!
火蓮よ、そう簡単に親子の縁を切れると思うなよ!」
「そうよそうよ!あなた。素敵!」
「そうだろそうだろ!」
2人は取らぬ狸の皮算用に笑いが止まらなかった
____一年後
「柊さんー。こっちも商売なんだわ。無茶苦茶言ってないで払うもん払って貰える?」
「だ、だからそれは娘の火蓮に払わせます。まだ19ですし風俗にでも入れてもらえれば稼ぎますよ、あいつ!」
「そ、そうですよ。それに、あの師匠とか言うヤツに払わせればいいわ。あいつ金持ちらしいから!」
ある金貸しの事務所の床に柊夫妻は正座させられていた。
連れて来られる時に抵抗したから2人とも体にアザが見える。
「そんなこと言っても、その娘は連帯保証人でもなんでもないでしょ?そしたら親だからと言ってもその子に支払い義務はないわけよ。
それに調べてみたらあんたら、その子の親権持ってないじゃない?」
「そ、そんなバカな!」
「うちの業界も横の繋がりあるからさあ。
あんた達、前にも同じような事したんでしょ?
それで味しめたのかも知れないけどさ、親がいなくなって借金押し付けられたら役所の手続きで親権なんて剥奪できるからね。
18超えてりゃ成人だし、もう戸籍も分けられてるわ。
言ってしまえばあんたら血の繋がった他人なわけ」
「な、そんな勝手な事!」
「勝手な事してんのはあんたらでしょ?
まあいいわ。こっちは金貸した時から回収できる方法考えてるから。
あんたら歳食ってるけど見てくれはいいじゃない?海外からしたら日本人は若く見えんのよ。
海外の金持ちが高く買ってくれるから。
あの人、男もいけるから取りっぱぐれないし、すぐ壊しちゃうから継続的に需要あるし。
あんたらみたいなバカがいてこっちは大助かりなんだわ。
良かったじゃない。金借りても行けなかった海外に行けるよ?」
ニタニタと笑っていた顔を一瞬で真顔に戻した男は部下に「連れてけ」とだけ指示して夫婦には興味がないとばかりに座ったエグゼクティブチェアをくるりと回して窓から空を見上げた。
その後、柊夫妻は海外の好事家に高く売られた。
彼らがそれからどうなったのかはここで言うのははばかられる為、ご想像にお任せする事にしよう
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