第32話 きれた縁

「43番でお待ちの方、3番の窓口までお越しください」


火蓮は自分の番号を確認すると3番窓口の受付へと向かった


「本日はどう言ったご用件でしょうか?」


「冒険者免許の交付をお願いします」


「かしこまりました。実績書類はお待ちでしょうか?そちらがないと試験を受けていただくのですが次回の開催は18日となっておりまして」


「あ、持ってます!あと、個人カードです」


「はい。お預かりいたしますね

…はい。確認させて頂きました。

それではこちらお預かりしまして審査の後、冒険者免許の発行をさせていただきます。

審査の時に個人情報を取り扱います。勿論私どもの目に触れる事なく、AIによる審査になりますので個人情報流出に関してはご安心ください。ご了承頂きましたらこちらの端末にサインと指紋をお願いします」


「あ、はい!」


火蓮は差し出された端末にサインをしてランダムで指定された指の指紋を5つセンサーに通した。


「それでは審査、免許発行までのお時間の間、冒険者になるにあたってのランク制度や注意事項を説明させていただきます」


火蓮は説明を聞き逃さないように真剣に話を聞いた。

隣に黎人が居ればもう「ちょっと肩の力を抜いても大丈夫だぞ」と笑っただろう


「柊様はGクラス実績からの免許取得となりますので魔物との戦闘には慣れているかと思いますが、これからのダンジョンは、魔物と呼ぶに相応しいゴブリンやコボルトと言った人型の魔物や、大型の魔物も出現いたします。

これまでの実績から過信せず、安全な探索をオススメいたします。

…それでは、冒険者免許が出来上がりましたのでこちらをお渡しいたします。

それでは続きまして冒険者免許について説明させて頂きます」



冒険者免許を取得すると言う事はそれなりの責任がついて回る事になる。

運転免許と同じ様に様々な決まり事がある。

運転免許等と違い、冒険者免許は世界共通であり、各国でのルールも統一されている。

例えば、冒険者免許を過去現在所持している者は国際冒険者法に基づくやむを得ない場合を覗いて一般人に対しての暴力行為を禁ずる。

や、一般人に対して制限されたダンジョン内の映像、又は情報を公開する事を禁ずる。

等、一般大衆に冒険者の力を見せる行為を禁じている物が多い。

これは力を持った冒険者を恐怖の対象とするのを防ぐ為とされている。


他にも色々あるのだが、これだけは絶対厳守と言うルールだけ教えられ、他はルールブックを渡されるだけと言うお粗末なものなのはいかがなものかと思う。

一説によれば、これは魔石を吸収して知力が上がれば簡単に覚える事ができる為、未読や素行の悪い冒険者を弾き出す為とも言われている。

なので、火蓮は渡されたルールブックは帰ったらじっくり読もうと決めていた。


免許の交付が済んだら用事が終わった師匠とロビーで待ち合わせをしている為、ロビーへと向かう。

既に師匠は用事を終えて待っており、見つけた私は一直線に師匠の元へと向かった。


師匠と合流すると、師匠はもう1人来るから少し待つ様に言った。

2人で待つ間、免許交付手続きが緊張した話などしようと思ったが、私の後ろから声がかけられた。


「火蓮、探したんだよ!こんな所にいたなんて」


振り向くと、1ヶ月ほど前に私を置いて蒸発した両親が立っていた。


「パパ、ママ?」


「そうよ火蓮。ママたち貴方を探してたのよ。火蓮これからね、貴方の面倒を見てくれる人を連れてきてあげたわよ。ほら」


「ご紹介に預かりました山田太郎です。こっちは前田次郎」


再開した両親は挨拶もそこそこに黒服の二人組を紹介した。失礼かもしれないが2人とも本名じゃなさそうである。


「えっと、それはどう言う___」


「火蓮、パパ達を助けておくれ。この人達の言う通りにすればそれでいいからね」


両親達の見た事もない作った様な笑顔に寒気がした私はその話を拒絶した。


「嫌です!2人とも私を捨てて言ったくせに今更なに?」


「でもね、火蓮さん、私達もはい、ですかとは言え無いんですよ。あなたの両親かなりの借金が有りましてね、それを帳消しにする為にあなたを出稼ぎに出すそうでして。

ほら、これ契約書です」


「そんな…」


「ちょっと内容を確認していいか?」


「…あなたは?」


「まあこいつの師匠ってとこだな」


師匠が私を庇う様に前に出て黒服の男、山田と対峙してくれる。


「何が師匠だ!こっちは親だぞ!」


「貴方は黙って!」


「はい…」


父が師匠に文句を言おうとするが、それは山田にピシャリと止められた。


「どうぞ。正式なもので法の効力もありますよ」


いやらしくニヤリと笑う山田が師匠に契約書を渡してそれを師匠が呼んでいく。


「いやらしい契約書だな。ほぼ違法なのに契約書として出来上がってしまっている」


「ええ。それでも契約は契約です。火蓮さんは元々連帯保証人として契約されていましたからね。あなたは肩代わりして私どもの店で借金である2千6百万を返すまで働いて頂きます。

勿論、今ここで全額支払って頂いてもいいですけどどうされます?」


山田のニタニタとした嫌らしい笑いはいっそう深くなる。

私はどうしていいのか分からず師匠の服の裾をギュッと握った。


「火蓮、お前はどうしたい?両親を捨てて冒険者としてこれからを生きるか、それとも両親達の為に向こうへ行くか」


「…私は、冒険者として生きたい!」


「そうか。ならどうすればいいと思う?さっき冒険者免許を貰ったんだからおんぶに抱っこではダメだ。考えろ、お前が自由になる方法を。


「そんな事を言ってもこちらには契約書があるんです。借金を待つ事なんて出来ませんよ?」


ダンジョンでただ指示をくれるだけでは無く、私の成長の為にアドバイスだけで私に考えさせていたのと同じ様に師匠は私にヒントをくれた。

しかし山田はその言葉に否定的だ。

私は師匠の言葉をじっくり考え、ある答えを導いた。


「師匠、私に2千6百万貸してください!無期限で!」


「ああ。いいとも!」


師匠は正解だと言う様にニコリと笑うと何もない空間に手を突っ込んだ。

そしてその中から封筒をを取り出し私に渡した。


「これで、私は解放されますよね?」


「…確認しますので少々お待ちを。前田!」


「…へ、へい!」


ごつめの大男前田が器用に数えていくのを待ってる間に山田が話し出した。


「まあ《アイテムボックス》や《異空間》から出したのですから正確でしょうけど一応です」


「あんたも冒険者?」


「いえ、少し詳しいだけの一般人ですよ。

前田の方は元Cクラス冒険者でしたけどね」


そこまで話した時に前田が確認を終わり山田に耳打ちした。


「それではお嬢さん。これで契約は完遂です」


そう言って契約書を私に渡した。

それを私は真っ二つに破る。


「それでは、ご機嫌様」


そうして黒服2人はこの場から去って行った。


「か、火蓮!さすが俺の娘だ!あんな事を思いつくなんて!」

「そうね!さすがよママ驚いちゃった!」


黒服が去った後、そんな事を言う両親に私は冷たい視線を送る。


「それにほら、師匠はお金持ちみたいだし、パパ達も一緒に養って貰えば一石二鳥だな!」


なんて能天気で都合のいい頭の持ち主なんだろう。呆れてため息も出ない。


「私は貴方達と親子の縁を切るわ!子供を売ったんだからその時に親子の絆なんてとっくに切れてるでしょうけどね」


「なんてこと言うの!パパに謝りなさい!」


「いい加減にしろよ?」


師匠が両親に怒気を向けたのがわかる。


「親だと言い張るなら火蓮の借金をお前たちが返せ!子供は親の道具ではない!」


両親の顔が苦痛に歪み、この空間の温度が下がったのを感じる。

しかし遠巻きに揉め事を見ている冒険者には影響を及ぼしていない。

空気が変わったのを察した冒険者たちはスゴスゴと何処かへ行くようだが。


「く、覚えてろよ!」


いかにも三下じみた言葉を残して両親は去って行った。


「火蓮、よくやったな。お前なら気づくと思ってたよ」


「ありがとう。師匠」


相手が一般人である為、暴力に訴えてはこちらが悪になってしまう。

契約書が正式とみなされてしまう以上2千6百万を支払う他ない。

そのまま師匠が払っても良かったのだが、私が借金を背負う事で親に責任を放棄させ縁をきる事ができるのだ。

そして、私がそれを選んだと言う事実が大事だった。


ワシワシと私の頭を撫でる師匠に私は「髪が崩れるからー」と言いつつも身を任せる。


「イチャイチャするのはそれくらいにしておきましょうね、2人とも!」


私が振り向くとそこには1人の女性が立っていた


「久しぶりね、火蓮ちゃん!」

_________________________________________


「兄貴、あんなので終わらせてよかったんですか?」


「ああ。あれは《黄昏の茶会》の2代目リーダーだ」


「あいつが日本のエラーコード!」


「今は事を構える時じゃぁない。

肥料も品種改良も実験段階だ。農園の手配もしなくちゃいけない。

これからはお遊びはやめにして種を集めるのは後回しにしだ」


「はい兄貴」


「それではエラーコードゼロ。《賢き者達けんじゃ》が作った箱庭を《愚かしき者達ぐしゃ》が破壊するその日まで」





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