第30話 大切な書類
カラン。と大きな魔石が転がった。
その魔石の持ち主だったヒョウのような魔物はその横で胸を裂かれて転がっていた。
「あっ!」
そう大きな声をあげたのは火蓮だった。
「だいぶ上手くなったがまだまだだな」
黎人は優しい声でそう話した。
転がった魔石は火蓮が取り出す時、最後に気を抜いてナイフで弾いてしまい飛んでいった物である
「最後まで気を抜かない事だ。
しかし、これでようやく集まったな」
「はい」
この魔石で火蓮は冒険者免許を取る為の条件を達成した事になる。
冒険者免許をとって早く一人前の冒険者として独り立ちしたい。と思う半面、冒険者免許を持っていない黎人と別れて一人でダンジョン探索をする事にも不安を覚える。
火蓮は冒険者免許を取り立ての冒険者に比べると魔石を吸収して大幅にフライングスタートを決めているのだから心配はほぼ無いのだが、今まで元上級冒険者がついていてくれた事を思うと本当に大丈夫か不安に思ってしまう。
ここまで指導をしてもらった数週間の出来事は今までの人生の中でとても濃密で、それが終わってしまう事に寂しさも感じている。
この《木こりの原っぱ》からの帰り道も今日が最後で、多分明日か明後日には何処かの国家ギルドに冒険者免許交付の手続きに行くだろう。
受付にて、魔石貢献度の保証書を発行してもらい、冒険者免許交付についての説明を受ける。
「柊様、おめでとうございます。
この書類は無くされますとまた魔石を集め直していただく事になりますので、大切に保管してください。
それでは、これから冒険者としてご活躍される事を応援しております」
いつもの担当の猿渡さんに激励をもらい自分の成長を実感して嬉しくなる。
「なにニコニコしてんだよ、これからが本番だぞ?」
「いーじゃん、別に!嬉しいんだからさ」
「はいはい。ほら、行くぞ?」
「あ、まってよ!師匠!」
私はもらった書類を大切に抱えて師匠を追いかける。
帰り道に寄ったスーパーで、師匠に買ってもらったご褒美の鯛焼きはとても美味しかった。
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都内某所
「ねえ、柊さん。こっちも商売なんでね、逃げてもらっちゃ困るんですよ?」
「申し訳ありません申し訳ありません」
「こんなボロ屋に雲隠れしてさ、逃げたつもりになっても簡単にさがせちゃうんだよ?」
雑居ビルの一室で椅子に座る黒のスーツ姿の男に向かって2人の男女が土下座をしていた。
「ほら、謝ってても話が進まないでしょ?こっちは貸した金利子入れて2千6百万キッチリ返してくれたらそれでいいんですよ?」
「すいません、すいません」
謝るだけの男女に椅子に座った男の後ろに立った大男が痺れを切らして2人に詰め寄ろうとするがスーツの男が腕だけで大男の行動をやめさせる。
男女はその動きだけで「ひっ」と恐怖に声が詰まるが、そんな事はお構いなしにスーツの男は話を続ける
「返す目処がないからこっちも強行手段に出るしかないんですよ。一昔前からこう言う時は女を風俗に落とすって決まってるんだが、このおばさんじゃ旬はすぎてるしなぁ。物好きが居たとしても大した金にはならねえし。となると、2人ににはダンジョン物資の人体実験でもしてもらいましょうかね?」
ここまで無茶を言ってるスーツの男が貸した金額は100万程度であった。それが法外な利息で膨れ上がって2千6百万である。
追い詰められた男女は全てを捨てて夜逃げをしたのだが、この様に捕まってしまったと言うわけだ。
「おら、兄貴が提案してくれてんだろ!なんとか言えや!」
大男の声にビクビクと体を震わせながら土下座した男は答える
「じ、人体実験は、命は勘弁してください…」
「じゃあどうすんの?他に方法はある?」
「む、娘を…娘は18で親のわたし達が言うのもなんですが綺麗な子です。体で稼がせればなんとかなるかと…」
「うわー。酷い親も居たもんだよね、
「うす」
スーツの男の言葉に大男が返事をする。
スーツの男は金もさることながらこう言った見せ物を見る方が趣味なのである。
「娘の場所、わかる?」
「それは…」
「まあスマホにGPSでもついてんだろ。いーよ。それで手打ってあげる!ほら、契約書!」
こうして男は娘を2千6百万で売ると言う違法な人身売買の契約書に震える手でサインするのだった
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