第29話

都内某所にあるとある事務所


「山根!いったいどうなっている?健二の被害届がまだ取り下げられてないぞ」


「私には分かりかねます。健政君にかかればすぐだと思ったのですが…」


「もういい!お前に頼んだ私がバカだったか。私が連絡する!」


目の前で唾を散らしながら受話器を上げる上司を見ながら顔に付いた唾をハンカチで拭った。

上司、都議会議員野村健太郎はご立腹である。

次男の健二が警察のお世話になって数日。その解決を頼んだ長男、健政が今だに解決できていない事に苛立っているのである。

今は金と権力の力でマスコミを押さえ込んでいるが、事が公になれば手の平を返して大々的に報道するだろう。

議員の息子の不祥事。

この問題は野村議員の議員生活に関わる大問題なのである。


「おい、健政!いつまでかかっている!ん、なに?こっちに向かっている?

ああ。わかった。待っているぞ」


「山根、今から健政がくる。直ぐにこちらへ通せ!」


電話を切った野村に山根は深く礼をして退室する。従順に。



しばらくした後、部屋に健政はやって来た。

ソファで待っていた父親、野村健太郎の向かいにドカッと座る


「まず親父、今回の件だけどな、健二のやつやりやがったよ!俺は今回手を出さない」


「何を言っている!これ家の保身に関わる問題なのだぞ!」


「いや、親父の保身だろ?俺は政治家にならなくたって冒険者としてやっていける。

そもそも健二を甘やかしたのは親父だ。

今回健二はとんでもない地雷を踏み抜いたんだ。俺は俺の保身のために健二とは縁を切るね。場合によっては親父ともだ」


「な、何を言っている」


「名前で調べても分からなかったけどよ、親父が言ってきた冒険者、わざわざGクラスまで第一のギルドマスターやそれ以上の人物が会いに来る人物だそうだ。

部下が仕事を実行する前に見たらしい。

間一髪だ。そんな奴に手出したら俺も一巻の終わりだからな」


だんだんと健太郎の顔は青くなっていく。

過呼吸気味にひゅうひゅうと荒い呼吸になっている。


「俺は最近の元冒険者でそんなことされる人物は1人しか心当たりねえよ

だから、今回の件は自分でなんとかしてくれ。俺は、政治家にはならない」


それだけ言って、健政は部屋を出て行った。

父親の縋り付く様な叫び声は無視した。

健太郎の声を聞いて、事務所にいたスタッフが部屋へと駆け込んでいく。

駆け込んで行ったスタッフは秘書の山根では無かった。



次の日の朝刊の一面は野村健太郎が飾る事となる。

息子である健二の不祥事だけで無く、裏金や権力を使った犯罪行為など今までやって来た後ろ暗い事全てが記事になり、健太郎は議員辞職どころか逮捕される事態にまでなった。


__________________________


その日の夜、県境の山道を野村健太郎の秘書山根は走っていた。


「ひひひ、ざまあみろ!」


山根は野村健太郎に長年顎で使われてたまった鬱憤を晴らす様に健太郎の罪を全てリークした。

健政の雰囲気を見てもう甘い蜜は啜れないと悟ったと言うのもある。

リークと引き換えに得た金を持って東京都外へと高跳びしている道中だった。


うねうねとした道を結構なスピードで進み、カーブを曲がった時、この山道ではあり得ないはずの人影がライトに照らされた。

山根はブレーキを目一杯踏み込むが車は急には止まれない。


ドン!という衝撃の後山根はどうやって轢いた人間を隠そうか考えていた。とりあえずトランクに押し込むしか無い。

考える時にハンドルに押し付けていた頭を上げる。

すると奇妙な事にライトに照らされた人影は今だに車の前に立っていた。

慌てて車を降りる。

そこで山根が見たのは猛スピードで突っ込んで来た車を片足で止めてそのままへこんだバンパーに足を載せている健政の姿だった。


「け、健政君…」


「親父のは自業自得だけどこのまま裏切り者を逃がしちまうと俺にまで火の粉が降って来そうだからな。

じゃあな、山根」


いつの間にか山根の後ろに回っていた健政が山根の心臓を背中からナイフで貫いた。


その後、その山では事故による車の火災があったとか。




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