第28話 謝罪
ファミレスで香織と喧嘩別れの様なことになってしまってから3日後。
雫と瑞稀は、火蓮に連れられて黎人の家に向かっていた。
火蓮が仲介したのだが、初めはめんどくさいからと断られていた。特に話すことはないと言って。
だけど火蓮は、あの人達が一歩踏み出す為には必要なんだろうなと説得した。
幸い、一度断られたものの、火蓮がそこまで言うならと2度目はすんなりと受け入れてくれた。
私は今、柊さんに連れられて黎人君の家に向かっている。
何処かのお店でと思っていた為に、まさか家に行く事になるとは思っていなかった。
もう一度話そうと思って香織に連絡したものの、電話に出てくれないし、メッセージも既読無視だった為、瑞稀と2人で柊さんについて歩く。
「柊さん、ありがとうね」
「べつに、アンタ達には必要な事だと思ったし、私は師匠に救われたけど、そいつの場合はアンタなんじゃない?そう言うの見てると思う所があっただけだよ」
「うん。それでも、ありがとう」
瑞稀はと言えばこの3日間で私の家に泊まり込んで何が悪かったのか。いろいろな事を話してこれからの事もたくさん話した。
それもあって反省しているのだが、反省した分、どの面で会いに行けばいいのか分からず緊張して私の手を握っている。
耳があればしゅんとしおれいる事だろう。
申し訳ないが、そんな瑞稀を支えてあげないとと思う事で私の緊張は誤魔化せていた。
連れて来てもらったのは、最近できた都心にある1番高いタワーマンションだった。
「柊さん、ここ?」
「ここですよ。ここの最上階です。鍵は持ってるんで、行きましょう」
「う、うん」
誤魔化していた緊張が一気に戻ってくるのを感じる。胃の下が痛い。
香織はここには来たことなかったのかしら?来てたらあんな言い方はしないでしょうねえ
エレベーターで最上階へ向かい、降りた所は既に玄関で、企業のエントランスほどある広いリビングが見えている。
エレベーターを降りてから玄関であろう場所までの間にはガラス張りでオートロックの自動ドアで仕切られている。
柊さんが端末部分に手をかざすと自動ドアが開いて中へと入った。
案内されてリビングテーブルに座る。
リビングテーブルもおしゃれな木の一枚板と黒のリバーテーブルで絶対に高い。
触れない様にして黎人君が来るまでに周りを見渡すとバーカウンターのあるバースペースまである。旅行で行ったホテルのラウンジよりも豪華である。
隣で緊張のあまり俯く瑞稀の手をぎゅっと握ると瑞稀はありがとうとばかりにこちらを向いてぎこちない笑みを見せた。
ごめん瑞稀、私の緊張を紛らわせただけなんだ。
そう心の中で謝っていると、柊さんが黎人君を連れて来た。
「委員長久しぶりだね。清水?もこの前ぶりかな」
「れ!黎人君今日は時間作ってもらってありがとう。それに伊藤か雫でいいから」
声がひっくり返って恥ずかしいがそのまま礼を言いきる。
「春風、ありがとう。時間作ってくれて」
瑞稀も声は硬いがしっかりとお礼を言った。
黎人君は私達の対面に座った。隣に柊さんも座る
「それで、要件を聞こうか?」
「うん。ほら、瑞稀」
「春風、今日は謝まりたくて来たんだ。ブラックリストに入れちゃった事。
あたしバカだからさ。あの事がこんなに大変な事になるとは思わなくて。
雫に言われてさ。自分がどれだけやばい事をしたのか考えたんだ。許して欲しい」
「…謝る必要はないよ。俺は辞めようと思っていた冒険者を辞めれただけ。ブラックリストにしても冒険者に戻されなかったから良かったくらいだ」
「だけど…」
「謝罪は受け取らないよ。謝って許されるとかそんな事ではないからね。
君のした事は世間的に言えば悪い事で、謝って終わりじゃない。
悪い事をしたと思うならそれを忘れない様に、繰り返さない様に生きるんだ」
「うん」
「ならこの話は終わりだ。俺の話を聞いて、お前がどうするのかはお前次第だ」
「うん」
「清水、伊藤。冒険者になるんだって?
なら初めは稼ぎは少ないし世間一般のイメージ通り底辺の稼ぎだから一足飛びに稼ごうなんて思うなよ?
火蓮にも言ってるけどな。無理に稼ごうとして怪我をすれば収入は無くなる。
死んだら終わりだしな。初めは魔石をしっかり吸収してステータスを上げて魔物を楽に倒せる様にマージンをとるんだ。
人数を増やすのも良くない。信用できない人間は不和を生む。
冒険者に限らず悪い人間は居るからそれを見極めろ。
堅実に、一歩一歩進め。
それが俺からのアドバイスかな。
俺が2人にこれ以上何か教える事は無いけどまあ頑張りな。
それじゃ、火蓮、送ってあげな」
私達はお礼を言ってマンションの下まで送ってもらう。
「柊さん、今日はありがとうね」
「いいよ。
あんたも、そんな暗い顔しないの。師匠がアドバイスくれたって事はアンタ達に死んでほしくは無いって事だろうから許してもらった様なもんでしょ?」
「うん。頑張る」
「雫さん、私もまだ免許すら取ってないけどさ、もし行き詰まった時には力になるから」
柊さんは私の方を見て言った。
「ありがとう。困ったら連絡する。
私達はこれから長野へ行こうと思ってるの。
東京のGクラスダンジョンは瑞稀が行きにくいと思うから私のおばあちゃんの家がある長野で冒険者を始めようかって2人で話したの。
私達も立派な冒険者になるから、その時は、ちゃんと冒険者になった柊さんと探索できるかな?」
「…考えとく」
「うん。ありがとうそれじゃ、行くね」
私と瑞稀は柊さんにお礼と挨拶をして帰路に着く。
「瑞稀。私達、頑張ろうね」
「うん。死なない様に。堅実に!」
少し気持ちが軽くなったのか瑞稀の顔が少し明るくなった事に自然と笑みが溢れた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます