第27話 今更気づいても…

香織は今、初めてのダンジョンへとやって来ていた。

Gクラスダンジョン大須ギルド。

ネットでざっと調べた所、冒険者資格を取る為の試験はこの前終わった所で、次は1ヶ月先だった為、それ迄は資格が無くても入れるGクラスダンジョンで慣れるのが良いらしいと書いてあった為、ここまでやって来た。


ギルドという初めての場所だったが、さすが公共施設なだけあって綺麗で驚いた。

冒険者のイメージ的にもっと汚くても仕方ないと思っていたが、ここは新しくできたスポーツジムのエントランスといった雰囲気である。


とりあえず、受付へと向かおうとしていると私と同い年位の3人組が声をかけて来た。

男2人に女1人の彼らはここの常連らしく、副業程度にここに来ているそうだ。

私が初めてだと話すと彼らはレクチャーを買って出てくれた。

いくら安全と言える初心者ダンジョンといえど、奥に進むと危険はあるのだそうだ。

女性も居る3人組という事で、私も不安だった事もあり、レクチャーをお願いした。



ダンジョンに入って思ったのは普通。

そりゃ東京や名古屋なんかのコンクリートの街並みとは違う。

しかし広がっていたのは木漏れ日差し込む森。

自然豊かな田舎の方に行けばありそうな風景

ここに来るまでにレクチャーを受けながら魔物を数匹倒したがちょっと大きめの飛ばない鳥と犬だ。

魔物と言えば化け物といったイメージがあっただけに拍子抜けである。

そんな事をレクチャーしてくれている3人組に言ったら物語に出て来そうなゴブリンなんかの化け物は冒険者免許がないと入れない様な所に出てくる魔物でGクラスダンジョンでは一般的な動物だそうだ。


入り口付近で軽くレンタルした武器についてレクチャーを受けた後、この入り口付近は人が多い為、もうちょっと奥へ進む事を提案された。

奥に行くほど魔物は強くなるが、所詮Gクラスダンジョンだし3人は慣れているから大丈夫だと言う事なので、3人がおすすめする狩場という場所へ移動する事になった。


言っていた通り奥へ行くほど入場者は少なくなり、おすすめの場所に着く頃には周りに人は居なかった。


人気ひとけが無くなってしばらくした時、私は背後からの強い衝撃に地面へと倒れた。

何事かと痛む膝を気にしながら四つん這いのまま顔だけ振り向くと、後ろに居た女性と男性1人がニタニタと笑っていた。

気味が悪くなり前をあるいていた男の方を見るとこちらも嫌な笑みを浮かべている。


「こんな所までノコノコと付いてくるなんておバカちゃんよねー」


女は嫌味ったらしく話を続ける


「私はアンタみたいな綺麗です!って女が大嫌いなのよね。私はそばかすまみれで髪もぐしゃぐしゃの癖毛なのに、あんたはなに?ダンジョンこんなとこに来るのに綺麗に髪の毛巻いちゃったりしてさ!ああ、私を虐めてたあの女を思い出すわ」


「ひがむなひがむな」


男の1人は笑いながら女を嗜めている


「わ、私をどうする気?」


「そりゃ俺たちが美味しくいただくのさ」


「可愛く撮ってあげるからねー。それで私の鬱憤は薄くなるしアングラでビデオ売って私達は儲けてあげるからさ」


「なあ、もういいよな!こんな上玉は滅多にねえんだ!」


「男は堪え性がないわよね。もっと絶望で顔を歪ませてからのが楽しいのに。いいわ。やっちゃいなさい」


女がそう言ってカバンから取り出したビデオを構えると男2人は私の方に向かってゆっくりと歩き出した。


「い、いや…」


私は逃げようとするが恐怖で体がうまく動かない。

あっさりと肩を掴まれて亀の様にひっくり返されると1人が馬乗りになって私のプロテクターを剥ぎ取った。


「プロテクターの付け方も外しやすい様に教えとかないと外すのに時間がかかるからな。

どれ、ひひ!胸もいい胸してやがるじゃねえか!」


続いてブラウスまで剥ぎ取られ、私は下着を露わにされてしまう。


「きゃー!誰か!助けて!」


「ったく、誰も来ねえよ!ッチ!うるせえなっと!」


ドスっと私の頬に衝撃が走った。


「おい!顔はやめろよ!せっかくの上玉だぞ!」


「悪い悪い。ついな」


恐怖で声が出ない。下着の上から胸を揉まれ、なんとか抵抗しようと手を動かそうとするが順番待ちで立っていた男がガリっと私の手を踏んだ。

声にならない声を上げるがその声は何処にも届かない。


抵抗も虚しく遂に下着まで剥ぎ取られようとした時。

地響きで体が揺れた。


「なんだい、こりゃ?」


ニタニタと私が痛めつけられ、辱められる様をカメラに収めていた女が声を疑問の声を上げる。


「おい、こりゃやばいぞ!」


「ッチ!こんな時にかよ!何処のバカだ?」


「これから面白い所だってのに!おい、逃げるぞ!」


そう言って男達は私を解放して立ち上がる。


「何よ?これからいい所なのに!」


「どっかのバカが奥まで行って魔物引き連れてトレインして来やがった!

地響きが起こるほどなんて早く逃げないと俺達もやべえ!」


それを聞いて女も罵詈雑言を叫びながら男達と共に逃げていく。


助かった訳ではないのは分かる。

私を放り出して逃げ出す出来事が起こったのだ。

とりあえず殴られ、踏まれて痛む身体に鞭打って立ち上がると手を握るのもままならない激痛が走る腕を動かし乱れた服を整えろうとするもボタンは飛んでいって破れたブラウスはどうしようもない。仕方なく落ちていたプロテクターをそのまま被るようにつけた。


地響きが大きくなるのを感じてそちらに振り向くと10匹ほどの熊の魔物がこちらに向かって走って来ていた。

その口元は赤黒くシミを作り爪には衣服が引っかかっているのが見える。

瞬間的に感じた。

私がここに来るまでに倒した鳥や犬とは違う。


恐怖ですくむ足を引きずり逃げようとするが、熊達のスピードは早く追いつかれ、振り抜いた腕が私の体を掠めた。

それだけで私の腕からは血が飛び散り、その延長線上にあった顔から目にかけても切り傷が出来て血が溢れる。


痛さに気を失いそうになった所に別の熊の腕が振り抜かれ私の体は空中を舞った。


岩に叩き付けられて強引に意識が呼び戻される。

逃げる力など無く、ただ恐怖に震えるだけしか出来ない。

熊達は楽しんでいるのか一思いに私を殺さず食わず、私をいたぶって遊んだ。


私の足は曲がっては行けない方向に曲がり、身体中も傷だらけで転がり、もう視力さえも無くなって来ている。


死ぬ間際に、走馬灯って本当に見るんだな。

楽しかった記憶。小学校の時の家族でのお出かけ、中学校の運動会。


そして、高校で初めて出来た彼氏。


当時、高校生ではあまり居ない冒険者をしていた彼、告白したのは私からだった。

好きだったと言う訳ではない。ギャルだった私は強いヤンキーに憧れる様な感覚で特別感のある冒険者と言う肩書きに憧れただけ。

だけど付き合ってみたらいい人だった。

女慣れしてないけど優しくて、我儘を聞いてくれる人。

コンビニでたむろする友達を尻目にファミレスデートをするのが楽しかった。

夏には泊まりでテーマパークに連れて行ってくれた。

こんな怖い思いして連れて行ってくれてたんだ。

最低だな。私。

雫と瑞稀は私みたいにならないで欲しいな…


そこで、私の意識は途切れた。



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