第21話呼び出し
私、清水瑞稀は今朝出勤して早々ギルドマスター室まで呼び出しを受けた。
「朝からギルマスの相手とかテンション下がるんですけどー」
私が働く葛飾区ギルドのギルドマスターは50代のおっさんだ。
50代でもダンディな渋いイケオジならまだいいのだが腹に油の乗ってるタイプのおっさんだ。
清潔感はあるし髪型もサッパリしているのだがあのザ・中年な腹。
それに何より公務員の事務仕事だからって事務用のアームカバーは無いだろう。
呼び出されたのもこの前課長に媚び売った時にギルドマスターに話しておく的な社交辞令貰ったけどそれかな?
男ってちょろいよね!ちょっと胸元緩くしとけばいい様にしてくれるんだから。
「清水です。失礼します」
そんな事を考えていたらギルドマスター室の前に到着したのでノックをして返事が返ってきてから入室する。
この扉が地獄の門と知らないまま。
入室してからどれくらい経っただろうか。
私は未曾有の危機に立たされていた。
「清水君、黙っていても話は終わらないよ?
君はある人物を許可なくブラックリストに入れたねと聞いているんだ」
春風のヤロー、チクリやがったのか!
私に感謝しても良いものをそんなに冒険者に縋り付きたかったのか?
バカだねー一応大学出てるんだろ?どこのかまで知らないけど。現実見て働けよな!
「は、はい…」
「はいじゃわからないよ?」
「ブラックリストに入れました。
しかしそれは元同級生が冒険者として落ちぶれるのが見てられず、尻を叩いたとでも言いましょうか…」
「うぉっほん!」
ギルドマスターの話を遮る様な咳払いに私は自然とびくりと震えた。
「何が冒険者として落ちぶれるだ!お前などあの方の足元にも及ばんわ!」
「ひっ!」
「あの方は、春風様は日本を代表する上級冒険者様だ!稼いでる額だけ見てもお前は足元にも及ばんし、社会的地位もお前より上だ!
何を持ってお前より下と決めつけた?なあ、清水君?」
「そ、それはここに来る様ですと冒険者免許も持っていないでしょうし…それに、それに__」
「ああそうだな。お前の知り合いが勝手に冒険者免許を取り消したらしいな!世界ギルドの案件にも関わらず、国家ギルドの職員が、勝手に!」
「ひっ!」
「この事実の隠蔽に東京にあるギルドが総出で行っているんだぞ?
穏便に済ませてもらう様に日本支部のサブマスターが謝罪とお願いに伺ったそうだ。
おかげで冒険者免許取り消しの件もブラックリストの件も穏便にすませてくれるそうだ。
こんな不祥事が公になったら大問題だからな、一安心なのだが、お前に何もお咎めがないのはおかしいからな。
普通なら懲戒免職なのだが…」
懲戒免職。
その言葉にまた体が自然と震える。
自分としては死ぬほど頑張って受かったギルド公務員試験。家族も喜んでくれた。
公務員って、クビにならないんじゃなかったの?
そんな思いが走馬灯の様に頭を駆け巡る。
「しかしな、春風様が大事にしない様にと言ってくださったそうだ。君は10年間給料を半分に減給の上受付業務から清掃業務に転属を命ずる!」
「え、そんな、清掃業務なんて委託の業者の仕事じゃないですか!それに、給料が半分なんて、生活できないじゃ___」
「普通なら懲戒免職の所を公務員として残してやろうと言うんだ。感謝こそすれ文句はないだろう?
お、そうそう。給料が半分では東京に住むのは辛かろう?どこか家賃の低い田舎に左遷してやろうか? ふん!これで話は終わりだ。今日はもう帰ってよろしい。出て行きたまえ」
私はここで涙を見せない様に礼だけしてギルドマスター室をでた。
歯を食いしばって服を着替え、早足に外へ出た。
早足から駆け足にかえて葛飾区ギルドからはなれ、見えなくなった頃、この気持ちを何処かにぶつけたくて、誰かに聞いて欲しくて友達の伊東雫に電話をした。
一回、二回、三回、四回。
何回かけても電話に出てくれない。
「出てよ?ねえ、ねえってばあ」
ついにはリダイヤルを押す指に力が入りすぎてスマホを地面に落としてしまった。
しゃがんで拾い上げようとしたが、遂には涙が溢れてしまった。
堰を切った涙は止めることはできずに嗚咽混じりに溢れ出す。
朝から受付の為に頑張ったメイクはぐしゃぐしゃになり、道の真ん中で泣き崩れる私は周りの通行者に避けて通られる。
全てを失った様な孤独に包まれた様な気さえしてくる。
そんな私に、声をかけてくれた人がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます