第18話 葛飾区ギルド

 今日も今日とて黎人は火蓮と共にダンジョンへとやって来た。

 ダンジョンの攻略は順調に進み、黎人はそろそろ火蓮に冒険者免許を取らせてもいいのではないかと思っている。

 日々の魔石吸収によって火蓮は《スキル》の発現は無いものの基礎能力としてはオール5は軽く超えて十分Fランクダンジョンにケガがない様に余裕を持って行けるくらいには上がっている。

 全ての魔石を吸収するのでは無く、指定された魔石を納品に回してもいい頃だろうと《きこりの原っぱ》の最奥へと進む話をしていた。

 最奥と言う言い方ではあるが、このダンジョンの場合最外周と行った方がいいだろ。

 Gランクに指定されているダンジョンはボスと言われる魔物は出て来ず、又、攻略と言っても名前の通り草原が広がって外周に行くほど強い魔物が出てくるだけで行き着く先は外壁と呼ばれる岩の断層だ。

 断層付近で出てくる魔物が1番強く、その魔石の中でもエネルギー量が一定以上100個以上の物を指定個数納品する事がFランクの冒険者免許を取る為の一つのミッションとなっている。


「だから今日からは外周で取った魔石は納品するからな」


「うん。早く冒険者免許取れる様に頑張るね!」


 そんな話をしながら2人はいつもの様に受付を済ませる為に受付カウンターへとやって来た。


 しかし、今回また、そう易々とはダンジョンへは向かえない様だ。


「春風黎人様、春風様がいらっしゃったら取り次ぐ様に言われております。少しお待ち頂いてもよろしいですか?」


 受付でそう言われたのでしばらく待つ。

 先日絡まれた件だろうとあたりを付けて待っていたのだが、やって来たのは意外な人物だった。


「春風さん!本当に探しましたよ。まさかこんな所にいるなんて想像しませんでした」


 そう言って受付の奥から現れたのは世界ギルド日本支部サブマスターの神崎だった。

 話を聞いてみると俺を探していたみたいだ。

 確かに、冒険者を辞めた時に挨拶にも行かなかったからな。

 必死に俺の引退を止めてくれていたしさぞ驚いた事だろう。

 そう思うと、火蓮につきっきりでに挨拶もしていないな。

 まあ冒険者は気まぐれ。1週間程休む事なんてザラにある。また火蓮の事が落ち着いたら挨拶にでも行くかな。

 そんな事を考えていると、神崎はまだ話す事がある様でこのギルドのギルマス室を借りているからそちらで話そうとのことだった。

 それに、見知らぬ男達が1人神崎の後ろに立っていたが、東京第一のギルドマスターらしい。

 そんな大物まで連れてきて、俺にいったいなんの話があるのか。

 話は俺だけでいいそうなので、火蓮には中層までのダンジョンに潜るか、やりたい事があればそれで時間を潰す様にいって俺は一人で神崎達についてギルドマスター室へと向かった。




 _______そんな光景を陰から見ていた人物がいる。

 その人物は慌てた様子で受付にて何かを確認すると慌ててギルドを出て行ってしまった。




 ギルドマスター室、言われるままにソファへと腰掛けた黎人に神崎と東京第一ギルドのギルドマスター高坂は開口一番深々と謝罪をした。

 黎人が訳もわからず戸惑っていると、これに至るまでの経緯を話してくれた。


 確かに。世間一般的な見方からすれば黎人が

 された事はとても許せることでは無い。

 しかし黎人にとっては、数ヶ月足止めをくらっていた冒険者引退の手続きをしてくれただけなのである。

 そりゃ、元彼女に未練が無いと言ったら嘘であるが、だからと言って復縁を望むわけでは無い。

 初彼女だったし、将来も考えて必死に頑張って来たのだが、彼女を繋ぎ止めておく魅力が自分には無かったのだと折り合いは付けてある。

 ある意味達観しているが、妙に人間味がないのは黎人が成長期に爆発的なスピードでステータスを上げて、ゲームで言う所のINTを上げてしまった副作用でもある。



「春風さん、冒険者に復帰しては貰えませんか?」


「嫌だよ面倒くさい!」


 勿論、神崎のその言葉への返答はノーである。

 それに、俺は今ブラックリスト入りしているはず。ブラックリストの解除には国際会議での承認が必要なはずだ。

 それを神崎に伝えると、神崎は愕然とした表情で声を振るわせた。


「ブラックリスト?そんな事を誰が…まさか、相澤克樹!」


「いやいや、違うよ。ここの受付。俺の高校の時の同級生がさ、冒険者に偏見が多いみたいで真面目に働けってここに来た初日にね。まあ復帰する気もないし、こうやって復帰をお願いされた時役に立ちそうだったから止めなかったんだけどね」


 俺の言葉を聞いてこのギルドのギルドマスターであろう人物が顔を真っ青にしている。

 かわいそうに思うが、部下の教育不足なのだから胃くらいはダメージを受けてもらおう。


「しかし、それでは春風さんをこちらの不手際で引退に追い込んだと言う事実は変わらず、日本は大変な事に…」


「流石に、その言い方を俺の前でするのはどうかと思うよ?」


 笑いながら話す黎人に謝る神崎。そして、凍りつくギルドマスター2人


「まあいつもの事だから良いけどね!」


 神崎はサブマスターとしていつもギルドの利になる事を考えている。

 そんな神崎だから黎人はギルドの役員として信頼できると思っているし気が抜けないとも思っている。


「要はさ、俺が自主的に冒険者を辞めてギルドが承認した。普通の引退だと発表しちゃえばいいんだよ。

 確かに世界は驚くだろうけど俺の供給量なんてせいぜい1割だろう?年間100%エネルギーを使い切ってる訳じゃないんだからさ、今までのプールと下の成長で5年10年すれば何事もなく世界は回るさ」


「そ、それはそうでしょうが…」


「あ、それとあの相澤?とここの受付の罰は最小限にしてあげてね。俺は別に元カノや元同級生に不幸になって欲しい訳じゃないんだからさ、反省してくれりゃそれでいいよ。

 もう関わりたいわけでもないけど」


「…わかりました。春風さんの意見を尊重させていただきます。しかし、それ相応の罰はないと示しが付きませんので」


 その後、どう言うふうに引退発表するのか。

 その後の方針など細かい所を決めていくのだった


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る