第16話 発覚
東京第三ギルドでの調査の結果、分かったのはこのギルドでゼロの登録消去が行われた事。
時間が午後の7時40分と言う事である。
7時40分と言う事は夜間シフト、もしくは残業の職員しかいない為、担当した職員が分かりやすいと言う事だ。
神崎、そして東京第一、第三のギルドマスターはその時間にギルドにいた職員を呼び出し、当時の状況や、ランク確認の後、高ランクの冒険者の引退引き留めを行なっているかなどの聞き取りする事にした。
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「部長、なんかギルドマスター室に呼び出された人達居るみたいですね」
「ああ。俺のとこにも連絡来てたから内容はわかるけどよ、なんでも高ランクの冒険者を引き留めなしで引退処理したらしいぞ。
一昨日の夜勤の奴ららしいな!
嫌だねー。不祥事とまではいかないが結構な問題だろうよ。他のギルドマスターが動いてるって事はAランク以上じゃないの?下手したら国際問題か?」
「そんな躍起になる事ですかね?どうせ肉体労働者でしょ?高ランクの冒険者1人いなくなったからって、中級の奴らに頑張らせて補填すれば事足りるんじゃないですか?」
「相澤、その言い方は仕事中はやめとけ。
冒険者がほとんどのエネルギーを供給してるんだから俺たちがそれを言っちゃまずいでしょう?
まあそれをちゃんとした形でエネルギーとして活用してるのは俺たちな訳だがな。
それはいいとして、例えばAランクの冒険者が取ってくる魔石とBランクの冒険者がとってくる魔石のエネルギー抽出率には15倍の開きがあるって言われてる。CDランクなら3桁とも言われてるな。当然ながらランクが上に行くほど冒険者の数は少なくなるし立場も大きくなる。
ほら、例えばだが、どんな仕事でも社長になりゃ立派な立場だろ?
冒険者ってのは世界的職業だからな。
S以上の冒険者なんて立場的に言えば大統領や総理大臣なんかと同じか上の扱いになる。
だから第一なんてエリートギルドに行きたくないのさ。そんな奴ら相手にしてたら気が滅入る。
ここ第三みたいにC〜Fの冒険者なら下に見て仕事できるから気分がいいだろ?」
部長はそう言って笑っている。
俺は働き始めてずっとこの人の下だがこんな話は初めて聞いた。
冒険者を下働きと見下す部長を見て見下していたが上級だとそんなに気を遣わないといけないのか。
俺は昇級を重ねて、ゆくゆくは第一や第二ギルドの役職付きの仕事をしたいと思っていたが、第三で働いてた方がいいのかもしれないな。
なんせ、上級とは言え見下してる冒険者にヘコヘコするのは嫌だからな。
「相澤さん!ギルドマスターがお呼びです!至急ギルマス室までお願いします!」
俺が考え事をするとそうスタッフが伝えて来た。
部長は驚いた顔をしながら俺を送り出した。
「お前、なんかやらかしたのか?」
なんて冗談混じりに言っていたから大した様ではないだろうが、俺は急いでギルドマスター室へと向かった_______
ギルドマスター室に入室すると、3人の人物が待っていた。
1人はここ第三ギルドのギルドマスター。
もう1人は見たことがある。第一ギルドのギルドマスター。
そして、真ん中に立つ女性は見たことがないが、この2人のギルドマスターの真ん中に立っているとなると2人よりも立場が上なのだろう。
「はじめまして。私は世界ギルドサブマスターの神崎といいます。来ていただいたのは少し、質問したいことがあったからです」
その言葉を聞いて、背筋が伸びる気持ちだった。世界ギルドサブマスターといえば日本のトップギルドの第2位と言うことだ。
どうして、自分が呼び出されたのだろう。
ここに呼び出されていた職員達が退室している事を見ると、部長と話していた件とはまた別なのだろうが。
「相澤君、ゼロと言う人物を知っているかね?」
第一ギルドのギルドマスターが質問してくるが、なんのことだかよくわからない。
「はい。この仕事をしていますから。日本一の冒険者は把握しています。しかし、それがどうかしたんでしょうか?」
第一ギルドのギルドマスターはため息を吐きながら再度質問する。
「いや、そうではない。君はゼロと知り合いかね?と聞いているのだ」
ますます意味がわからない。俺とゼロに接点があるわけがない。
「いえ、知り合いではありませんが、その、俺はどう言った理由でここに呼び出されたのでしょうか?」
「ふむ。まずはそこからだな。先日、ゼロが登録消去、つまり引退をした。世界ギルドの方で引退を止まってもらう様に説得をしていたそうだが、なんの話もなく、この第三ギルドで登録が消去されたことが分かった。
高ランクの冒険者の引退。しかもSSSランクの冒険者ともなれば世界的問題ともいえる。
その登録消去が行われた日の受付に聞き取りを先程行ったのだが、その日の引退は無かったそうだ。
しかし、その日。
職員の一部から君が携帯端末を帰宅時に持ち出したとの報告を受けた。
その時点で問題なのだが、どうしても終わらない事務処理の際に自宅に持ち帰るのを黙認していた事実もある。
ただ、携帯端末からでも冒険者免許の登録消去ができる。
まさかとは思うが君は、ギルド外でその様な事をした訳ではないだろうね?」
俺は背中に嫌な汗が大量に出たのを感じた。
頭の血の気も引いているだろう。
俺はあの日、確かに冒険者登録を消去した。しかしあれは婚約者の元彼の底辺冒険者で、妻もそう言っていたし、消去しても問題ない、底辺の、底辺の…
「あなたは、春風黎人と言う人物を知っていますか?」
神崎サブマスターの、その言葉を聞いて、否定したかった全てが否定できなくなった。
婚約者の、元彼の名前は春風黎人。あの日、放り投げた横線の引かれたカードの名前も春風黎人。
つまり、俺が、ゼロの登録消去をしたと言う事で間違いないのだ。
「し、知らなかったんです!彼が、ゼロだなんて!こ、婚約者に頼まれて!まさか、そんな、底辺冒険者だからって…」
「相澤さん、底辺の冒険者など居ません。私達の仕事は冒険者が居てこそ成り立ちますし、危険を冒して世界のエネルギーを供給してくれている冒険者に感謝しなければいけません。
そうでなくても、あなたがした事は職務規定違反ですし立派な犯罪行為です」
俺は頭が真っ白になった。犯罪?いや、俺は部長にビシッと決めて彼女をモノにしてこいとアドバイスをもらっただけで、底辺冒険者なら何かに理由つければ問題ないって…
俺は膝から崩れ落ちる。なぜか、力が入らない。
「貴方の婚約者なら、春風さんに連絡を取ることができますか?」
「へ?」
「この件が世間に露呈してしまえば日本の立場は終わりともいえます。
なので、春風さんを説得して冒険者に復帰してもらうか、せめて、正式な手続きをして引退した事にしてもらいたいのです。
元々、春風さんは引退したがっていましたし、世界に発表するタイミングによっては最低限のダメージで済みます
この件が上手くいった際には、貴方の罪は不問。とまではいきませんがかなり軽くする事を約束しましょう。
司法取引の様なものです」
俺は、微かに見えた光に縋り付く様に、香織に電話をした。
香織は、もう連絡先を消してしまった様だが、友達である地方ギルド職員の清水瑞樹から葛飾区ギルドに来ていると話を聞いたそうだ。
俺はその可能性をギルドマスター達に伝える。
「Gランクギルドですか。思ってもない場所ですが、とりあえず会わない事には話は進みませんね。後日、貴方にも謝罪の機会は作るつもりですが、先ずは私達がコンタクトを取る事にしましょう。
それまで、貴方は自宅待機。これ以上何か起こさない様に、独断行動を禁じます!」
その後、俺は呆然たしたまま、自宅へと帰って来た。正直、どうやって帰って来たかも覚えていない。
どうしてこうなってしまったんだろう。
俺は何もできずに玄関で膝を抱えてうずくまった。
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