第13話 撃退

 俺の名前は野村健二のむらけんじ

 このGクラスダンジョンで大学、高校生のグループをまとめるリーダーだ。

 将来は都議会員の父の後を継ぐ兄の秘書をする為に部下を指揮するカリスマを身につける為にここに来ている。

 なので冒険者になる気はない。と言うかあんな負け組になる気はないと言った方がいいか。

 昔から誰にでもできる肉体労働者など人生の負け組に決まっている!そう言う奴らをアゴで使う様になるのが俺の様な上に立つ人間だ!


 なのに今日、元冒険者とかいうゴミに言い負かされた。

 それもこれも仲間が持って来た情報が間違っていたからだ。

 俺が立てたプランが台無しになった。

 あんな可愛い女が底辺の隣にいていい訳がない。

 俺の様なエリートの隣にいてこそ輝くのだ。


「クソ!」


 俺は苛立ちに任せて机を蹴った。


「野村さん!落ち着いてください!」


 俺を宥めてくるのはこのグループの副リーダーの春日井学かすがいまなぶ

 お前がまとめて来た情報が間違ってたから恥をかいたんだろうが!と怒鳴りたくなるが部下に怒鳴るのは二流のする事だ。


「苛立つのも分かってくれよ学。あんな底辺にいいようにやられたとあっちゃ親父の顔に泥を塗っちゃうだろ?」


「俺のせいで、すまねえっす」


「いや、学はよくやってくれてるよ。他の奴らが持って来た情報がダメだっただけだろう?

 だけどアイツ。俺に恥をかかせてただで済ませるわけにはいかない。それにあの女にも、お仕置きが必要だろう?袖にしたのは誰なのかを分からせる為にもな」


「でもどうやって?」


「ダンジョン内でボコっちまって目の前であの女を俺の物にしちまうさ。

 親父のコネ使えば揉み消すことが出来るだろ。なんならボコった後に魔物に食わしちまえば証拠も残らないだろうさ」


「そ、そこまでしますか?だけどあの男元冒険者らしいですしそう簡単にボコれるとは…」


「バカかお前は?あいつ24って言ってただろ?その年で冒険者引退してるって事はその程度の実力しかない雑魚って事だよ!

 へへっ所詮下民は権力の前ではゴミだって事を教育してやらねえとな。まああの時と一緒さ」


 その言葉を聞いて春日井はゾッとした。

 過去に一度、野村は無茶をして権力で揉み消したことがある。

 それは大学で目をつけた女が彼氏持ちで、野村の告白を断った事で起きた事件。

 自尊心を傷つけられたと怒った野村は彼氏の前でその女を集団で犯し尽くしたのだ。

 勿論今のパーティメンバーは全員参加していた。

 その後、彼氏の方は大学を自主退学。そして女の方は自殺した。

 そんな事件も野村は親の力で揉み消したのだ。


 前回は間接的だった。

 しかし今回はダンジョン内という事で直接手を下すだろう。

 逆らえば自分へ降ってくるかもしれない。しかし従っていれば甘い蜜を吸える。

 春日井はもう、野村の下から離れられない。


 _______________________________________



 ある日のダンジョン。

 黎人と火蓮は囲まれていた。

 魔物ではなく人間に。


 昨日いざこざがあったDQN集団である。


「俺に恥かかせた事後悔しながら死ね!

 だが、死ぬのはたっぷり後悔した後だけどな!あらお前ら、ボコっちまうぞ!女はまず俺からだからな!押さえつけて剥いとけ!」


 DQN集団リーダー野村はメンバーにそう叫んだ。

 武器を構えた男達がジリジリと間合いを詰めてくる昨日の人数の3倍くらい。クランには届かない3パーティくらいの人数に増えている


「いや、お前らが勝手に自滅しただけじゃん?

 それに俺、元冒険者なんだけど?火蓮も魔石吸収してる。

 お前ら昨日の話し方だと魔石吸収してないだろ?

 勝てないって。やめとけよ。」


「舐めんな!雑魚が!」


 俺の言葉に沸点の低い1人が武器を振り上げてこちらに駆け出した。

 始まってしまったら後は雪崩と一緒だ。止まらない。後続も続いてこちらへ向かってくる。

 まるで、ヤンキードラマのワンシーンの様だ。


「火蓮、冒険者になれば人型の魔物も出てくるけど、今回のは参考にならないから覚えなくていいぞ」


 そう言って向かってくるDQN集団に右手を向ける。

 別にこの工程は必要ないが、何かしてるとわかりやすいだろう。

 久々に使うが《スキル》だ。

 今回はいわゆる風魔法。風力操作の一つ。

 DQN集団の周りの空間を指定して酸素を一気に抜く。それだけで酸欠になったDQN集団は気を失ってバタバタと倒れる。

 走ってる人間が急に気を失えば大怪我だろうが俺が手を出すよりマシだ。

 プロボクサーや柔道の上級者が一般人に手を出してはいけない様に冒険者、元冒険者も基本的にダメだ。

 しかし、ダンジョン内と言う特殊条件下における正当防衛なら一部許される。


 一応、野村は残しておいたので野村とその横にいる男春日井だけ意識がある。


「な、何しやがった!」


「いや、俺元冒険者だし、《スキル》だろ。

 ほら、降参するなら聞いてやるぞ?まあこの事はギルドに報告するけど」


「う、五月蝿え!俺を誰だと思ってやがる!俺は___」


 結局、まだ抵抗しそうだったので一息に気絶させた。


「火蓮、これが《スキル》だ。魔石を吸収して得られる一つの特殊能力。

 きっかけがいつ、どこにあるかわからないが魔石をしっかり吸収して《スキル》を取得する条件が揃えば発現する。パッと頭に使い方が思い浮かぶんだ。これが無いと、上のダンジョンでは探索出来ない。と、コイツらギルドに連れてって報告だな。今日の探索はお預けだ」


 火蓮はスキルについてもっと聞きたそうだが、それは少し待ってもらおう。

 先にコイツらの処理だ。


 今度は風力操作と別の《スキル》を組み合わせてDQN集団を浮かせると受付まで運んだ。


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