第12話 やっぱりこうなる

 精算を終えて更衣室へと向かう道中。

 案の定と言うか、想定通りというか、やはり、先程ニヤニヤとしていた集団パーティが道を塞ぐ様にして声をかけて来た。


「おいおいおっさん、ギルドに言われたらちゃんと守らないとだろ?もうその子を連れ回すのはやめろって!」


 俺としてはそのニヤついた顔からどうにかしようか?と言いたくなる。

 パーティに誘うにしてもそんな態度で誘われてついて行く女子はまあ居ないだろう。

 善意より下心の方が透けて見える。

 それに、常識的に考えれば受付で対応があった後に俺と火蓮が一緒に行動していれば問題が無かったのだと気付かないのだろうか?


「何の事だろうか?それに、いきなりその言いようは失礼だろ?俺はまだ24だ。君たちにおじさんって言われる歳じゃないよ?」


 後ろで火蓮がプッと噴き出したのが聞こえる。いやだって、大学生におじさん呼ばわりは傷つくだろう?どちらかと言うと若く見られる方だよ?


「惚けてんじゃねえよ!その子とパーティ解散しろって言われただろ?その子は俺達とパーティ組むの。おっさんはお呼びじゃないの!」


 どうしてそうなるのだろうか。都合のいい様にしか考えないDQNはこれだから…


「惚けてないんだけどね?さっき受付で僕が火蓮の面倒を見る事に関しては何も問題ないと言われた所だよ。一体、君達はなんなの?」


「そんなわけねーだろうが!お前とその子が組むメリットがねえ!俺達と組むのが最善だ!」


 俺も火蓮も、その言葉に空いた口が塞がらない。一体どうしてそこまで自信を持って言えるのだろうか?


「…選ぶのは火蓮だろう?」


 そう言って火蓮に目を向けるがDQN集団は火蓮の言葉を遮って話し始める。


「いーや、それじゃお前に脅されていい返事ができないだろう?

 俺達が調べたところによると、お前はその子に報酬金の配分をせず、しかもあろう事が防具なしでダンジョン内を連れ回している!防具がないにもかかわらず戦闘はいつもその子に任せきりで自分は安全な所から見物。大方魔石をちょろまかされないか監視でもしてるんだろう?

 俺達はそんな事しない。彼女の実力なら即戦力だ!勿論、稼いだ報酬は均等割、レンタル防具に頼らずとも防具に必要な金は未金利で貸し出す。

 なあ、みんな、どちらの意見が正しいか分かるだろう?」


 DQN集団のリーダーであろう彼は騒ぎを見ている人々ギャラリーにそう問いかけた。

 聞いている人達は彼の意見だけ聞けば俺が悪い様に聞こえるだろうし案の定、俺に向けて嫌悪の目を向けてくる人も沢山いる。

 冒険者未満しかいないこのギルドではみんな精算を済ませて帰ろうとしていた時間。

 その中で起こった騒ぎの野次馬はそれは多かった。下手したら俺に非難の声が降り注ぐかも知れない。

 しかし、始まりの非難の声が上がる前にギルド職員の静止の声がフロアに響いた。


「なんの騒ぎですか!やめなさい!」


 その声と共に野次馬の人垣が割れ、猿渡さんと他のギルド職員が数名歩いてくる。


「公共の施設で騒がれては困ります!一体何の騒ぎですか?」


 猿渡さんの質問にDQN集団のリーダーはこう答えた。


「ギルド職員の方からも言ってあげてくださいよー!コイツまだ彼女を連れ回してるんですよ。なので、僕たちが注意と彼女を受け入れる事を伝えてあげてたんですよ!彼の悪行を暴いた上でね!」


「野村様、春風様の悪行とはどの様な事でしょうか?」


「おいおい、職員さん、俺はちゃんと田中さんに伝えましたよ?ギルド側で情報伝達出来てないのは問題じゃないですかぁ?」


 DQN集団のリーダーは猿渡さんを小馬鹿にした様に話す。


「それは春風様が無報酬で柊様を連れ回しているといったお話でしょうか?」


「分かってんじゃねえか。だったら_____」


「そのことに関しては問題がないとこちらで確認が取れております。

 無報酬との事でしたが、取得した魔石は全て柊様が吸収しておられます。税金の分は春風様が支払われていますからどちらかと言えば柊様に有利な条件かと思います。

 元冒険者の春風様に柊様が師事している為、ダンジョン内での戦闘は成長の為ほぼ全て柊様が担当されているとも伺っております。

 それに、防具に関しましても、春風様は最高級のインナースーツを柊様に渡しておいでですので問題ないと確認できます。

 野村様方に報告して頂いた情報が間違いであった為、問題がない事をすぐにお伝えするはずでしたが、春風様は先程精算を済まされたところでしたので」


 集団心理とは面白いもので、今の話を聞いて野次馬達はDQN集団の事を白い目で見ている。


「火蓮の引き抜きはいいけど、さっきお前が言った条件よりこっちの条件のがいいんだからもう無理だろ?」


 俺の言葉にDQN集団リーダーの野村は顔を真っ赤にしてぷるぷると震えているだけでコチラに返答はない。


「もういいそうなので俺達はこれで失礼します。猿渡さん、ありがとうございました」


 俺と火蓮はそう頭を下げて帰ることにする。

 火蓮と話した結果、シャワーは家で入ることにしてすぐに帰路に着く。

 また絡まれたらたまったものじゃない。


 終息が見えたからか野次馬達もぱらぱらと帰り始める。


「俺をコケにしやがって、許さないからな…」


 DQN集団リーダー野村がそう呟いたのは誰の耳にも届かなかった。

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