第11話 視線の理由は

 元カノに振られてから数日。

 適度に休日をはさみながらダンジョンへと潜っていた。

 この数日で火蓮はメキメキと実力を伸ばし、《木こりの原っぱ》の半分程まで進める様になっていた。なぜ半分程とわかるかと言えばGクラスダンジョンである木こりの原っぱは改変と呼ばれるダンジョンリセットがない為、ギルド受付で地図が売っているからだ。

 この辺りまで来ると、俺はほとんど見ているだけで出てくるモンスターはほとんど火蓮が倒している。

 きこりの原っぱはフィールド平家(ひらや)型ダンジョンと言われ、一階層しかない代わりに断層と言われるダンジョン内の切り替わりが存在する。

 その境目を越えると強い魔物が出現する。

 気をつけないといけないのは塔や地下マンション型ダンジョンと違い断層を越えても魔物が追いかけてくる点だ。

 マンション型は階段さえ登れば追いかけてくる事はない為、それに慣れた冒険者が気を抜いて事故る事がある。


 このGクラスダンジョンでは冒険者でない一般人が小遣い稼ぎに潜る。と言うか冒険者未満の一般人しか潜っていないのがGクラスだ。

 なので調子に乗った人間がモンスターを引き連れて逃げてくる事がある

 まあ、命がかかっている為そんな無茶をする奴は珍しいのだが。


 火蓮も断層を越える度に違う魔物が現れる為苦戦するが、少しアドバイスをするだけで1人で対処してしまう。

 やはり、筋が良い。


 そして今日も、ダンジョン攻略を切り上げて受付に戻って来た。

 いつもの様に魔石の精算。といっても税金分現金を払って魔石を持ち帰るのだが。その為に受付へと向かう。

 しかし、今日はここ数日と違い妙な視線を感じた。

 ふとそちらを見ると大学生くらいの集団がニヤニヤとこちらを見ていた。

 ニヤニヤとしているだけでこちらに話しかけたりもしてこない為、無視して受付へと向かった。


「お疲れ様でした。魔石の精算ですね。

 ただ、今回はその前に2点ほど確認をさせていただいてもよろしいですか?」


「ええ。なにか?」


 今回の受付担当は猿渡さんだった。

 猿渡さんは事務的に確認事項を説明してくれる。


「まず一つ目ですが、お二人がダンジョンに入場される際、防具を着けずに入場されている事が他の入場者や職員から不安視する声が上がっています。

 初回入場時に確認させていただきましたし、ダンジョン内の事は自己責任とは言えあまりにも軽装ですとリスクが大きすぎる様に感じます。

 レンタル料はかかりますが、レンタル防具のご利用をお願いしたいと思います」


 なるほど。と俺は納得する。火蓮に貸し出しているインナースーツはかなり高価な物であり、このレベルのダンジョンに入場する人間の装備にはふさわしくない。

 動きの阻害もせず、防御力もそこら辺の防具よりも高い為、元々周りの冒険者が皆使っていた為、周りにどう思われるかなど気にしていなかった。勿論火蓮にも説明していない(防御がこれで十分な事は伝えてあるが)為後ろで少し驚いた声が聞こえるが、俺は手首の時計型の操作板を見せて話す。


「分かりにくくて申し訳ない。そのあたりはこれで十分かと思うのだがどうだろうか?」


 猿渡さんは俺の手首を不思議そうに見た後、数秒固まっていたが、目を見開いて驚いているのを隠す様に笑顔を作る


「申し訳ありません!このランクのダンジョンでまさかインナースーツを着ている方が居るとは思ってもいませんでしたので。

 インナースーツをご着用でしたら問題有りません。職員にも通達し、他の入場者様から不安な声が上がりましたらその入場者様への説明も徹底させます!

 しかし、そうなると二つ目の確認も杞憂になりますね。

 一応、ご説明させていただきます」


 俺と火蓮が相槌を返すと猿渡さんは次の説明へと話を移す。


「一部の入場者様から春風様に、柊様に装備もさせずにダンジョンへと入場し、柊様に全ての狩をさせて、魔石を巻き上げている悪質行為が報告されておりまして、その為、パーティを解散させ、柊様を自分達のパーティへ加入させたいと申し出がありまして、事実確認を取る事になっていたのですがその装備だとほぼ杞憂かと思いますが柊様、春風様にご不満はございますでしょうか?労力、報酬の配分への不満、またパーティの不満がありましたらギルドから他パーティへの移籍をサポートさせていただく事も可能です」


「い、いえ!ダンジョン内での指導の他、私が早く冒険者として自立できる様に魔石は全て吸収させてもらってる上に税金の支払いに衣食住まで面倒を見てもらってる身です!これ以上の好条件はないでしょうし私は師匠の元で成長したいと思っています!」


 猿渡さんの質問に火蓮は興奮気味に答えた。


「ふふ。そう見たいですね。まさか魔石は全て柊様にいっていたとは思いませんでした。

 Gランクダンジョンで魔石吸収される方はほとんどいませんので、現金の分配をされてないのを不遇と思ったのかもしれません。

 ギルド側で通達しておきます」


 猿渡さんは申し訳なさそうに眉尻を下げた笑顔を作る。

 まあ、これを言って来た奴らの目的は火蓮だろうな。そうすると、先程ニヤニヤしてた集団の思考が読んで取れる。

 火蓮を救う王子様にでもなったつもりか、それとも、女を奪い取るDQN的考え方か。

 どちらにしても、迷惑な話だ。


 この後、絡まれるんだろうな。

 その前にギルドが動いてくれるんだろうか?

 それとも、絡まれてたらギルドが動いてくれるんだろうか?


 俺はとても低い可能性を願いながら、精算を終えて更衣室へと向かうのだった。


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