第2話 ある日の冒険者ギルド1

 その日は朝からギルドマスター室をノックする音があった。


「入ってもらっていいですよ」


 ギルドマスターが許可すると、焦った様子のサブマスターが入室してドアを閉める。

 一昔前に流行った異世界の創作物だと冒険者上がりの脳筋ギルドマスターが居たりするが、公務員職である冒険者ギルドの長なだけあって部屋も校長室のようなつくりであるし、受け答えもどこか事務的である。


「ギルドマスター、至急の要件ですが、今朝、SSS冒険者ゼロの登録が消去されている事が確認できました。それに伴いクラン黄昏の茶会も解体となっていると元黄昏の茶会メンバーからクレームが上がっています」


 サブマスターの報告にギルドマスターは理解が追いつかなかった。

 ゼロは引退をほのめかしていたがギルド側が留まって貰えるように説得、保留していた。

 まだ23歳という若さであるし、日本のトップを務める彼に引退されては冒険者側、ギルド側共に問題が生じる事が目に見えているからだ。

 現に彼が辞めた事でクランが解体されたのも彼以外にクランをまとめられないとサブリーダーがクランリーダーの譲渡を拒んでいたからだし、黄昏の茶会の下部クランも彼だから着いて行っているような物だ。

 それだけ、彼には他の追随を許さない実力があった。故に日本唯一のSSSである。


「神崎君、ゼロの引退を誰が許可したか分かりますか?」


「いえ、現在調べるよう指示してますのですぐに分かると思います。

 この案件は私以上の案件ですし、ゼロが引退したい為に他の職員に話を通す様な常識のない行動をするとも思いません。何かの間違いであれば良いのですが…」


「そうですね。話によっては日本支部だけの問題では無くなります。分かり次第報告してください」


 サブマスター、神崎は礼をするとギルドマスター室を退室した。

 ギルドマスター加藤播かとうばんは処理していた事務処理の手を止め、ため息を吐きながら体を背もたれに預けた。


「春風さん、なんでいきなりこんな事になるんですかぁ」


 ギルドマスターのそこそこ大きい呟きは完全防音のギルドマスター室の外に漏れる事はなかった


 ________________________


 ギルドのレンタル会議室、そこに23人の冒険者が集まり円卓を囲んでいた。

 緊張感ある雰囲気で向かい合うのは元黄昏の茶会のメンバーである。


 クランとは最大24人からなるレイドを目的とした一つの集まりであり、ダンジョン石を使ったクランルームを利用できる一つの集まりである。

 日本のトップクランが黄昏の茶会であり、どのクランに所属しているかは冒険者カードに登録されており、転移の扉にカードをかざす事でクランルームへと入室できる。


 しかし、今朝入室しようとしたメンバーが入室できずに、ギルドに問い合わせた結果、クランが解体されている事がわかった。


 連絡を受けたクランサブリーダーである板野奈緒美いたのなおみは冒険者カードの連絡機能でクランメンバーに連絡を取り召集したのち、今わかっている事説明し終えた所だった。


「クランが解散されたって事は黎人れいとは死んだって訳じゃないんだろ?」


「ええ。黎人君が死んだなら私にリーダー権限が移るはずだから解散は黎人くんが冒険者を辞めたのが原因だと思う。彼、辞めたがってたし」


 先ずは黄昏のゼロことクランリーダー春風黎人はるかぜれいとの安否確認から始まりこれからの事について話は進む。

 黄昏の茶会のメンバーはゼロを中心に集まったメンバーなのでクランを作り直さず、各々で別の道を進む事に決まった。

 ソロになる者、パーティーを組む者、新しくクランを組織する者、それぞれである。


「しかし、プライベートに踏み込まなかったのが仇になったな。レイ坊が何処にいるか、分かるやつはいないんだろ?」


 唐突に話題を変えたのはアロハシャツにサンダルとラフな格好の40代の男性、坂井五郎さかいごろう


「ええ。プロポーズするとか言って冒険者を引退したいとか言ってたけどそれだけしか聞いてないわ」


「それだけしかって、レイ君狙ってたのにそれを聞いて身をひいちゃったんじゃないの?」


 奈緒美の言葉にスレンダーなライダースーツにキツネ目が特徴的な芽衣亜めいあがクスクスと茶化す。

「そんなことありません」と返す奈緒美に芽衣亜が「つまんなー」と返す空気感にため息を吐きながら奈緒美はふと思い出したかのように言葉を発する


「たしか下部クランの星空のレストランのクランリーダーにその相談をしてるって言っていたからもしかしたらしってるかも?」


 そのきっかけから星空のレストランに連絡を取る方針でこの日は解散になった。



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